科学・基礎/結晶光学

11.楕円体表示と作図的方法

 前項ではフレネルの方程式が何を表しているかを知るため、光の進行方向を特定の方向とした場合について調べました。この特定の方向としてはx-y平面内やx-z平面内など2次元平面内を選びました。しかし実際の場合には3次元のあらゆる方向に進行する光が存在します。ここでは3次元空間での光の特性の直感的な理解を助ける方法として立体図形を用いる方法について説明します。

 まず8項で誘電率テンソルの対称性を証明するために用いた電界のエネルギー \(U\) に再び着目します。\(U\) は次式で与えられます。

\[U=\frac{1}{2}\varepsilon_{ij}E_i E_j ~~~~~(i,j=x,y,z)\tag{1}\]

ここで、

\[x_1=\frac{E_x}{\sqrt{2U}},~~y_1=\frac{E_y}{\sqrt{2U}},~~z_1=\frac{E_z}{\sqrt{2U}}\]

と変数を変換します。さらに誘電率テンソルを対角化するために座標変換(主軸変換)したとして、変換後の座標をx2y2z2 系とすると(1)式は\(i\ne j\) である項はすべて消えるので

\[\varepsilon_{xx}x_2^2 +\varepsilon_{yy}y_2^2 +\varepsilon_{zz}z_3^2 =1\tag{2}\]

となります。これは図11-1に示すような回転楕円体の方程式であることがわかります。これをフレネルの楕円体(もしくは誘電率楕円体)と呼んでいます。

 もっともよく知られている屈折率楕円体は上記のフレネルの楕円体を少し変形することによって得られます。さらにつぎのような新たな座標軸のx3y3z3系を取ります。

\[x_3=\frac{\varepsilon_{xx}}{\varepsilon_0}x_2=\frac{D_x}{\varepsilon_0 \sqrt{2U}},~~~~y_3=\frac{\varepsilon_{yy}}{\varepsilon_0}y_2=\frac{D_y}{\varepsilon_0 \sqrt{2U}},~~~~z_3=\frac{\varepsilon_{zz}}{\varepsilon_0}z_2=\frac{D_z}{\varepsilon_0 \sqrt{2U}}\]

すると(2)式は

\[\frac{x_3^2}{\varepsilon_{xx}}+\frac{y_3^2}{\varepsilon_{yy}}+\frac{z_3^2}{\varepsilon_{zz}}=\frac{1}{\varepsilon_0}\]

となります。\(\varepsilon_{ii}/\varepsilon_0 =n_i^2\) の関係を用いれば

\[\frac{x_3^2}{n_x^2}+\frac{y_3^2}{n_y^2}+\frac{z_3^2}{n_z^2}=1\tag{3}\]

と書け、(3)式で表される立体は図11-2に示すような回転楕円体となります。これを屈折率楕円体と呼んでいます。なお、図ではわずらわしさを減らすため \(x_3 \rightarrow x\)、\(y_3 \rightarrow y\)、\(z_3 \rightarrow z\) と置き換えましたが、これは前項の当初のxyz座標系と同一の系であることを意味するものではありません。

 ここで任意の方向に進む光を考え、その波数ベクトルを \(\boldsymbol{k}\) とし、上図に示します。これは上記のように波面の進む方向を示しています。

  しかし波面の進む方向、それを示す角度 \(\phi \) は実際には観測できません。観測できるのは光線の方向、すなわちエネルギーの流れる方向です。等方性媒質の場合はこの2つの方向は一致するので問題ないのですが、異方性媒質では一般に異なるので、両者の関係を知る必要があります。

 上記楕円体を用いると観測した光線の方向から作図によって波面方向を求めることができます。まず観測されている光線を含む平面での誘電率楕円体の断面の一例を図11-3に示します。ここではx-z平面を例に示しますが、座標は適宜選ぶことができます。

 作図はつぎの手順で行います。観測される光線の方向はエネルギーの流れの方向を示すポインティングベクトル \(\boldsymbol{S}\) と一致しますので、これを原点を始点にして図中に取ります。このベクトル \(\boldsymbol{S}\) またはその延長と楕円の交点Aにおいて楕円に接線を引きます。この接線に原点から垂線を下ろすと、この垂線の方向が波面に垂直なベクトル \(\boldsymbol{e}_k \) の方向に相当します。したがって接線の方向が波面の方向を示すことになります。

 以上の作図が成り立つ理屈についてつぎに説明します。

 着目する光の電界成分 \(\boldsymbol{E}\) のxyz成分 \(E_x\)、\(E_y\)、\(E_z\) はxyz各軸からの角度を \(\theta_x\)、\(\theta_y\)、\(\theta_z\) とすると

\[E_x =E\cos\theta_x \]

\[E_y =E\cos\theta_y \]

\[E_z =E\cos\theta_z \]

と書けます。ここで \(\cos\theta_x \) ・・・を方向余弦と言います。この電界と電束密度 \(\boldsymbol{D}\) は \(\boldsymbol{D}=\varepsilon\boldsymbol{E}\) の関係がありますから、xyz成分で書けば

\[D_x=\varepsilon_x E_x =E\varepsilon_x\cos\theta_x\]

\[D_y=\varepsilon_y E_y =E\varepsilon_y\cos\theta_y\tag{5}\]

\[D_z=\varepsilon_z E_z =E\varepsilon_z\cos\theta_z\]

となります。

 つぎに上記の電界ベクトルと楕円の交点Aの座標は、原点OとAとの距離を \(L\) とすると \(\left ( L\cos\theta_x ,L\cos\theta_y,L\cos\theta_z \right )\) となります。一般に \(f(x,y,z)=0\) で表される3次元曲面のこの曲面上の点 \((x_0 ,y_0 ,z_0)\) における法線ベクトルは

\[\left\lbrace\left (\frac{\partial f}{\partial x}\right )_{x=x_0},\left (\frac{\partial f}{\partial y}\right )_{y=y_0},\left (\frac{\partial f}{\partial z}\right )_{z=z_0}\right\rbrace\]

で与えられるので、(2)式の誘電率楕円体に適用すると

\[\left (2x_0 \varepsilon_x ,2y_0 \varepsilon_y ,2z_0 \varepsilon_z\right )\]

となります。これを上記のA点の座標に置き換えると

\[\left (2L\varepsilon_x \cos\theta_x , 2L\varepsilon_y \cos\theta_y , 2L\varepsilon_z \cos\theta_z \right )\]

となります。これは上記(5)式の電束密度ベクトル \(\boldsymbol{D}\) と方向が一致していることがわかります。このことは2次元でも同様なので、図11-3における上記作図によって波面、波面法線ベクトルの方向が求められることがわかります。

 なお、この場合の接平面の式は

\[\varepsilon_x x_0 (x-x_0 )+\varepsilon_y y_0 (y-y_0 )+\varepsilon_z z_0 (z-z_0 )=0\]

と表されます。

 上記の議論は誘電率楕円体に対してなされたものですが、屈折率楕円体は誘電率を用いて書くと

\[\frac{x^2}{\varepsilon_x}+\frac{y^2}{\varepsilon_y}+\frac{z^2}{\varepsilon_z}=1\tag{6}\]

で、(2)式の \(\varepsilon\) を \(\varepsilon^{-1}\) で置き換えた形になっています。このため上記と同じ筋道での議論はできませんが、\(\boldsymbol{D}=\varepsilon\boldsymbol{E}\) の関係を \(\boldsymbol{E}=\varepsilon^{-1}\boldsymbol{D}\) の関係に置き換えれば、つぎのように同様な作図的関係があることがわかります。

 図11-4は(6)式の屈折率楕円体のx-z平面での断面を示しています。この場合は電束密度ベクトル \(\boldsymbol{D}\) は始点を原点Oとすると終点は楕円上(Q点)にあります。この点Qにおける楕円の接線を引き、原点Oからこの接線に垂線OPを下ろすと、電界ベクトル \(\boldsymbol{E}\) の方向はOPに平行となります。

 点QとZ軸に関して対称な楕円上の点P' をとると、OP'の方向はポインティングベクトル \(\boldsymbol{S}\) の方向と平行になります。P' における楕円の接線を引くと、この接線の方向は波面の方向に一致します。この接線に原点O から垂線ON を下ろすと、このONの方向が波面法線ベクトル \(\boldsymbol{e}_k\) の方向に一致することになります。

 図11-2の屈折率楕円体をもう一度図11-5に示します。波面法線ベクトル \(\boldsymbol{e}_k\) に垂直で原点(楕円の中心)Oを含む楕円体の断面を考えると、それは一般には楕円となり、その長半径OQ1と短半径OQ2の長さはそれぞれ2つの屈折率 \(n_1\)、\(n_2\) を示します。

 この波面をもつ光は電界の振動方向がこの楕円の長径OQの方向と短径OQ2の方向に平行な2つの成分に分解できます。光線の進行方向は波面法線の方向とこのOQ1(またはOQ2)を含む楕円体の断面上で上記の作図で求められる方向となります。したがって1つの波面法線をもつ光でも光線の方向は2方向がありうることになり、これが複屈折現象が生じる原因です。

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