光デバイス/OLED

2.有機発光ダイオード

 まず有機材料を用いた発光素子を取り上げます。現在、有機発光ダイオード(OLED)と呼ばれている素子の原形となる構造は1980年代になってアメリカのイーストマンコダック社によって提案されました。一連の特許としては1980年代前半から出願が始まっていますが、集大成的なものは1987年の出願(1)です。これを見ながら構造を紹介していきます。

 図2-1は素子の基本構造を示しています。この素子は陽極(アノード)と陰極(カソード)の2つの電極に挟まれています。陽極に接する層は正孔注入層と呼ばれます。その上に正孔輸送層という層があり、この層が発光層としてはたらきます。そしてこの層と陰極との間に設けられた層が電子輸送層と呼ばれます。この3層はいずれも有機材料層です。

 このような層構造の素子の陽極と陰極の間に電圧をかければ、素子は順方向バイアスされることになり、電子と正孔が素子内に注入され、それが再結合して発光することになります。

この構造から気付くように正孔注入、輸送層は化合物半導体のp型層に、電子輸送層はn型層に相当し、素子はpn接合をもっていると考えてもよさそうに見えます。この素子に陽極から正孔、陰極から電子をそれぞれ注入し、注入されたキャリアの再結合によって発光が生じます。これは化合物半導体を有機材料に置き換えた発光ダイオードと言ってよく、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode(OLED))と呼ぶのがふさわしいと思われます。

 それにもかかわらず依然としてこの素子がしばしば有機ELと呼ばれているのは、初期の電界発光素子の流れを汲んでいるためと思われます。歴史的にみると、後ろの項で紹介するエレクトロルミネッセンス素子のなかに有機材料を用いたものがあり、これが先行しました。これについては簡単に後述します。

 さてイーストマンコダック社の有機発光ダイオードの各層の材料としては複数の例があります。代表例を以下に示します。

 まず、正孔注入層としてはポルフィリン化合物があげられます。その一例は銅フタロシアニンという色素としてよく知られた有機化合物です。ポルフィリンの化学構造式は(a)のような基本形をもち、金属原子MのところにCu(銅)が、QのところにはN(窒素)がそれぞれ入り、T1、T2 のところに6員環(ベンゼン殻)がついたものが銅フタロシアニン(構造式(b))です。

 正孔輸送層の材料としては芳香族3級アミンという化合物群があげられます。3級アミンというのはアンモニアのNH3の水素がすべて炭素を含む有機基に置き換えられた化合物のことで、具体的に使われているのは、構造式(c)で表される1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)―シクロヘキサン(TAPC)という物質です。これはイーストマンコダック社の先行特許(2)にすでに示されています。

 電子輸送層はキレート化オキシノイド化合物といわれる化合物で、具体的には構造式(d)で示されるトリス(B-キノリノール)アルミニウムという物質があげられています(MをAlとする)。この物質はAlq3と略称されてよく知られています。

 なお、陽極は透明導電層のITO(酸化インジウム鉛)、陰極はMgとAgの合金層などが使われます。

 有機発光ダイオードを考えるうえで、なぜ上記のような物質群が選ばれるのかという疑問が起こると思います。それを考えるには有機分子内の電子の挙動を知らなければなりません。有機分子内の電子の動きは化合物半導体結晶中の電子の動きとはまったく異なります。これについては後続の項と「有機分子の発光の物理」のページで説明しています。

(1)米国特許4720432号(対応日本出願:特開昭63-295695号)

(2)米国特許4539507号(対応日本出願:特開昭59-194393号)