光デバイス/光制御素子
付録8 偏光子-検光子
一対の偏光子を組み合わせ、一方の偏光子に対して他方の偏光子の偏光軸を回転させると、この一対の偏光子を透過する偏光の強度が変化するので、これを利用してこの二つの偏光子の間に置かれた光学素子の偏光特性を定量的に評価できます。
付図8-1に示すように、一対の偏光子のうち、入射光に対して前方に置かれた偏光子は、特定の偏光方向の直線偏光を作り出す役割をもちます。偏光子の偏光軸の方向は明示されているので、これにより作り出される偏光の方向を機械的に定めることができます。
これに対して後方に置かれた偏光子の偏光軸が平行(0°または180°)であれば、光は100%透過します(偏光子自身による損失が無視できるとして)。一方、2つの偏光子の偏光軸のなす角度が90°のとき、後方の偏光子を透過する光は完全に遮断されます。
2つの偏光子の偏光軸のなす角が、これら以外の角度のとき、後方に透過する光の強度がどうなるかについて、以下で説明します。これがわかると2つの偏光子の間に何か偏光に影響を及ぼす物が置かれたとき、その影響(偏光の回転角)を定量的に知ることができます。この偏光の回転を調べる(検査する)ことができることから、後方の偏光子を検光子と呼んでいます。
偏光子については「結晶光学」14項で取り上げていますが、この偏光子-検光子の組み合わせの特性には触れていません。偏光を利用した光制御素子においてはこの特性は重要なので、ここで要点をまとめておきます。
付図8-1に示すように、光の進行方向をz軸方向とし、偏光子の透過軸の方向をx’軸とします。入射光の電界ベクトル \(\boldsymbol{E}_i\) はジョーンズベクトルによりつぎのように表せるとします(「結晶光学」4項参照)。
\[\boldsymbol{E}_i=\dbinom{E_{ix'}}{E_{iy'}}\]
ただし、\(|E_{ix'}|\)、\(|E_{iy'}|\) はそれぞれ入射光のx’方向とy’方向の電界成分です。
偏光子のジョーンズ行列は「結晶光学」14項で示しているように
\[P=\pmatrix{1 & 0 \cr 0 & 0}\]
ですから、偏光子透過後の直線偏光の電界は
\[P\boldsymbol{E}_i =\dbinom{E_{ix'}}{0}\]
で表せます。
つぎにこの直線偏光を、偏光子の透過軸から \(-\gamma\) 回転させた透過軸をもつ検光子に入射させるとします。このとき検光子を透過する光の電界は、座標軸をx’y’軸系からxy軸系に変換したうえで \(P\) をかける必要があります。角 \(-\gamma\) の回転の変換行列は「結晶光学」4項の(11)式で表されますから、検光子を透過する光の電界のxy成分を \(E_{tx}\)、\(E_{ty}\) とすると
\[\begin{align}\dbinom{E_{tx}}{E_{ty}} &= P\pmatrix{\cos\gamma & -\sin\gamma \cr \sin\gamma & \cos\gamma}\dbinom{E_{ix'}}{0} \\ &= \dbinom{E_{ix'}\cos\gamma}{0}\end{align}\]
となります。「結晶光学」3項の末尾(19)式に示すように、光の強度は電界の2乗に比例しますから、検光子を透過する光の強度 \(I\) は
\[I\propto |E_{ix'}|^2 \cos^2 \gamma\tag{1}\]
と書けます。すなわち、検光子を透過する光の強度は、偏光子の角度、すなわち偏光子透過後の直線偏光の方向と、検光子の透過軸がなす角 \(\gamma\) によって決まります。偏光子と検光子の間に何もなければ、偏光子と検光子が同方向(\(\gamma=0\) )ならば、透過、直角(\(\gamma=\pi/2\))ならば、遮断されます。0と \(\pi/2\) の間の角度なら上式に従う透過光強度となります。(1式の関係をマリューの法則と呼んでいます。(1)
付図8-2に示すように偏光子と検光子の間に偏光に影響を及ぼす媒体(光学素子)が挿入されている場合、上記の角度と透過光強度の関係が変化します。このとき検光子の角度と透過光強度の関係を測定することにより、中にある素子の偏光特性を知ることができます。
偏光子の透過軸のx軸に対する角度を \(\theta_p\)、検光子の透過軸の角度を \(\theta_a\)に設定した場合、光学素子を透過した光の偏光方向を \(\theta_d\) とすると、検光子を透過する光の強度 \(I\) は(1)式より、
\[I=I_0\cos^2 \left (\theta_p +\theta_d -\theta_a \right )\tag{2}\]
と書けます。\(I_0\) は定数です。
よく利用されるのは偏光子と検光子の透過軸の角度を直角にする場合です。すなわち \(\theta_p -\theta_a =\pi/2\) の場合です。このとき(2)式は
\[I=I_0 \sin^2 \theta_d\tag{3}\]
となり、\(I_0\) が定まっていれば、\(\theta_d \) を求めることができます。精度の良い測定を行うための工夫はいろいろなされていますが、ここでは省略します。
(1)マリュー(E.-L.Malus)はナポレオン時代のフランスの科学者で、この法則は19世紀初頭に見出されています。もちろんジョーンズベクトルなど偏光に関する理論が確立したのは20世紀のことで、この法則はそれに先んじて実験(測定)の結果から提示されたものです。なお、マリュスあるいはマルスの法則と記される場合がありますが、これは英語読みです。