電子デバイス/負性抵抗素子
13.トライアック
サイリスタの機能を利用すれば、以前にも説明したように、交流電圧をアノード-カソード間にかけてゲート電圧を調整すれば、正弦波波形の一部を切り取った波形の電流を得ることができます。これによって変圧器などを使わずに交流のまま消費電力を調整できることになります。
ところが通常のサイリスタはSCR(制御整流器)と呼ばれるように、一方向にしか電流を流さない素子です。上記の用途なら何も整流をする必要はなく、両方向に電流を流しつつ、その波形の一部をカットした方がエネルギーの利用効率が高くなります。
そこで両方向に電流が流せ、かつスイッチングができる素子の開発が行われました。基本的な考え方は簡単で、普通のサイリスタを図13-1のように逆並列に接続するだけです。これで交流の正負両方向の成分を方向の逆のサイリスタの片方ずつを通して流すことができます。ゲート電極は一方の例えばp層に設けるだけでもよいですが、他方のn層にも設けて破線のように両方を接続することも可能です。
本当に2つのサイリスタを使ってもよいのですが、場所もとり、特性が不揃いだったりすることもあるので、1つの素子にまとめた方が便利です。そこで図13-2のような構造が考えられました(1)。真ん中のpnp3層が共通で、両側のp層内にn型の部分を形成してあります。実質はnpnpnの5層構造ですが、両端の電極はp型部分とn型部分にまたがるように形成されていて、これで2つのサイリスタが逆並列に接続された構成が1チップで実現できます。
この3端子素子をトライアック(TRIAC)と呼びます。3端子素子を意味するTriodeと交流のACを組み合わせた造語です。上記の特許から分かるようにアメリカのゼネラルエレクトリック社によって1960年代前半に開発されました。当初の商品名はトライアック・スイッチであったそうです。なお、トライアックの回路記号は図13-1の右側に示すようなものが使われます。
トライアックの電流電圧特性は図13-3のようにサイリスタの負性抵抗特性が正負に対称になり、ゲート電圧 \(V_g \) により、スイッチング電圧が正負両極性で制御できます。
共通の層をpn2層にした図13-4のような構造の素子もあります(2)。この場合はゲートに関係なく一方向は単純なpn接合の順方向になってしまいますので、この方向は図13-5に示すように常に導通状態となります。交流の片側極性のみを制御すればよい場合はこの構造でもよいと言えます。これを「逆導通型サイリスタ」と呼ぶことがあります。これに対する用語として通常のサイリスタを「逆阻止型サイリスタ」と呼びます。
以上3種類のサイリスタの交流波形をまとめると図13-6のようになります。目的に応じて使い分けられています。
(1)特公昭41-11420号
(2)特公昭39-16024号