電子デバイス/負性抵抗素子

1.はじめに

 負性抵抗素子という言葉はあまり耳慣れないかもしれません。負性抵抗は英語では"negative resistance"ですからただの「負の抵抗」なのですが、日本語でわざわざ「負性」と言うのにはそれなりの意味があるのかも知れません。

 電流は電圧に比例し、その比例定数を抵抗と呼ぶ、というのがオームの法則の意味するところです。電圧を増加させると電流も増加するので、比例定数は正、したがって抵抗は正の値です。

 抵抗が負の値ということは電圧が増加すると電流が減少することを意味します。図1-1に実線で示すのは通常のオームの法則で抵抗値は正です。一方、破線で示す特性は直線の傾きが負ですから、こういう特性があれば抵抗は負ということになりそうです。しかしこれは電圧を正の方向に大きくしていくと電流は負の方向に大きくなる特性ですから、実線の特性と電流の極性を逆に決めただけの違いでしかなく、実線の特性と本質的に同等の特性と言えます。言い換えると電圧と電流の絶対値をとって方向を考えないことにすれば、抵抗は負にはなりません。

 では図の赤線のような特性はどうでしょうか。この場合は電流、電圧の絶対値をとっても確かに傾き \(\mathrm{d}I/\mathrm{d}V \) は負です。しかしこの直線は原点を通っていないので、例えば太陽電池のように光によってキャリアが生成されるなどエネルギーの供給がない限りこのような特性はあり得ません。

 以下で取り上げる負性抵抗素子は図の赤線のような特性をもっていますが、必ず正の傾き(\(\mathrm{d}I/\mathrm{d}V \gt 0 \))の特性と組み合わさっています。大体は複数の傾きが正の特性があって、その異なる特性間を移り変わるときに負の傾きの特性が表れます。

 つまり本当に抵抗が負なのではなく、一部に特別な事情で \(\mathrm{d}I/\mathrm{d}V \lt 0\) の特性を含んでいることを負に見えるという意味で負性抵抗と呼び、そのような特性をもつ素子を負性抵抗素子と呼んでいます。以下に代表的な負性抵抗素子を紹介し、その原理を説明します。