光デバイス/発光ダイオード
57.エレクトロルミネッセンス素子
前項で紹介したように、最初に電界発光が確認されたのは液体中に蛍光体粒子を分散した発光層でした。しかし液体を使うのは何といっても不便ですから、すべてを固体化しようという考えは自然の流れです。間もなく固体層中に蛍光体粒子を分散した素子が開発されました。これを分散型電界発光素子と呼びます。
図57-1はこの分散型電界発光素子の積層構造を示す断面図です(1)。前項の液体発光層とよく似た積層構造です。発光層(エレクトロルミネセンス層)は、固体高分子(アクリル)中にCuをドープしたZnSの粒子が分散されています。液状の高分子にZnS粒子を混ぜた後、硬化させて作ります。
この発光層を挟む層は電極です。このうち上側の電極層は発光を取り出すため透明である必要があります。そこで透明高分子(例えばポリエチレンテレフタレート)基板上(図では下側)に高屈折率誘電体膜/金属薄膜/高屈折率誘電体膜からなるフィルタ層が設けられています。具体例としてはZnS/Ag/ZnSなどがあげられています。下側の電極層は金属(例えばアルミニウム)です。この素子は厚みのある部分が高分子層で形成されているため、曲げることができる(可撓性)ように作られています。後に有機ELでも同様な特徴が提案されます。
しかし分散型の発光層は樹脂と粒子の混合という作り方をするため、素子特性にばらつきが発生しやすいという点で不利です。そこで全体を均一な薄膜で構成した薄膜型電界発光素子が提案されるようになりました。
図57-2はその一例を示す層構造の断面図です(2)。発光層はZnSとMnSの混合物(以下ZnS:Mnと書きます)にGaをドープした層で、これを酸化イットリウム(Y2O3)からなる誘電体層で挟んでいます。発光粒子の周りを誘電体で覆った分散型の構造を、層状の発光体を誘電体層で挟む構造に変えたものとみることができます。
光は下側から出るようにするので、基板は透明なガラスとし、その上にSnO2からなる透明電極層が設けられています。上側の電極は反射層を兼ねたアルミニウム層です。
この素子に交流電圧を印加して発光させますが、その原理を図57-3のエネルギーバンド図で示します。EgはZnS:Mnのバンドギャップエネルギーを示し、EiはY2O3のバンドギャップエネルギーを示していますが、EiがEgより大きく選ばれています。図57-3は図57-2の両電極間に電位差が与えられた状態を示しています。図は一例として金属電極の電子のエネルギーE1が透明電極の電子のエネルギーE0に比べてEaだけ高くなった瞬間を示しています。
このときエネルギーの高い電子は金属電極から誘電体層をトンネルしてZnS:Mn発光層の伝導帯に注入されます。同じく正孔は透明電極から価電子帯に注入されます。この電子、正孔はGaが作る準位を介して再結合し、光を放出します。発光色は橙色系です。交流電源を使っているので電位の高低が逆になる瞬間もあり、その場合は図と電位の傾きが逆になりますが、発光に関してはどちらも同じに起こります。なお、文献(3)などによれば、発光機構はもっと複雑なようです。
商用電源が交流なので、交流電源は一見使いやすいように思えますが、他の電子デバイスはほとんどすべて直流電源で動作するので、同じ装置内で発光素子用にだけ交流電源を用意しなければならないのはあまり都合がよくありません。このため直流で動作する電界発光素子が求められることになります。
原理的には上記の構造の素子でも直流で動作するはずです。しかし電子、正孔が誘電体膜をトンネルするためにはかなり高電界が必要で、一方向に電界をかけ続け、一方向に電流を流し続けると、絶縁破壊や特性の劣化が起こる危険性があります。このため直流を使えるようにするためには素子構造を変える必要があります。
図57-4はもっとも単純な構造の例です(4)。ガラス基板上に透明電極、発光層であるZnS:Mn層などを形成しています。上部電極は金属です。直流電源により、透明電極側にプラス電圧をかけます。交流駆動型から誘電体膜を省いただけの構造で、これで直流駆動が可能なら交流駆動型にする意味はあまりなくなるような気がします。
(1)特開昭52-126188号
(2)特開昭56-138890号
(3)笹倉博、他、応用物理、51巻、p.821-823 (1981)
(4)特開昭60-151997号