光デバイス/発光ダイオード

56.まとめ

 発光ダイオード(LED)の21世紀に入ってからの発展は目覚ましいものがあります。その主役は照明への応用です。1990年代初頭の青色発光ダイオードの実用化をきっかけに、蛍光体との組み合わせによる白色発光の実現がその普及を強力に牽引したと言えます。いまや白熱電球の生産は激減し、そのほとんどがLED電球に置き換えられました。LEDの消費電力の低さと寿命の長さがその主な理由です。

 この発光ダイオードについて、以上の各項ではつぎのようなことについて説明しています。

   1.発光の原理と素子の構造

   2.素子の材料と発光色の関係    

   3.寿命、信頼性を決める要因   

   4.パッケージ   

   5.駆動回路    

   6.製造方法

 このように振り返ってみると、発光ダイオードの応用の観点からはあまりまとまった説明をしていませんでしたので、ここで少し説明しておきます。 はじめに述べたように発光ダイオードの照明分野への普及は目を瞠るものがあります。LED電球は旧来の白熱電球のソケットにそのまま取り付けられるのも置き換えが進んだ理由と思われます。

 このLED電球はその駆動回路を電球内に組み込んでいるのでいろいろな機能を組み込めることも特徴のひとつです。例えば人感センサーを組み込み、夜間人が接近したときだけ点灯させる防犯のための照明などが電球1個で実現されており、これからもいろいろな製品が出てきそうです。

 蛍光灯はまだ残っているものの、かなり置き換えが進んでいます。蛍光灯のような放電を利用した光源は電源が特殊なので、取り付け器具自体から交換する必要があり、白熱電球より少し取り替えがやっかいなうえ、蛍光灯の消費電力はかなり少ないので、置き換えの必要性がやや低いとも言えますが、寿命には大きな差があり、また蛍光灯には有毒な水銀が使われているので、置き換える価値は十分あると思えます。

 LEDは小さな半導体チップを発光させるため小さな点光源に近いものです。そのため電球でも複数の素子を並べて使用するのが普通で、蛍光灯のような細長い光源として使う場合は多数の素子をアレイ状に並べなければなりません。

 面状の光源ではさらに2次元に素子を並べる必要があります。面状光源は室内の天井に取り付ける照明にも使用されますが、液晶ディスプレイのバックライトへの応用もあります。液晶ディスプレイの原理は液晶シャッターとカラーフィルタの組み合わせですが、光源自体は白色の面光源です。これまでは蛍光灯が主として使われてきましたが、これをLEDに置き換えることができます。LEDを使えば、蛍光灯の場合よりディスプレイを薄くすることができます。また多数のLED素子が2次元に並べられていることを利用すると、表示画像に合わせてバックライトの明るさを部分的に変えるなどの機能を加えられる可能性があります。

 照明のもう一つの大きな分野は自動車用のランプです。かなり早くから赤色のテールランプの置き換えが始まっていましたが、ヘッドランプや方向指示灯なども置き換えられるようになってきています。

 照明以外の分野ではフルカラーディスプレイへの応用もあります。上の項でも触れた通りRGB3原色のLEDを並べればフルカラーのディスプレイが実現できます。しかしこちらは液晶ディスプレイを置き換えるには至っていません。

 液晶ディスプレイは上にも述べたようにバックライト、カラーフィルタ、液晶シャッタの組み合わせでできていますが、LEDなら3色のLEDのみで構成できますから、構造上簡単であるという利点があります。しかし消費電力が大きい点と配列技術が長い実績のある液晶に追いついていない点があるかと思われます。

 消費電力の点では有機ELの登場が大きなインパクトを与えるかもしれません。寿命の問題が解決されれば、化合物半導体LEDよりも面光源には適しているので、フルカラーディスプレイには期待できる素子と言えそうです。

 この他、プリンタへの応用は比較的早くから行われています。光で画像を書き込む光プリンタにレーザプリンタがあります。レーザービームを機械的に走査して画像情報を書き込みますが、LEDプリンタは用紙と同じ幅に素子を並べて画像情報を書き込むため、可動部がないのが利点とされています。プリンタ分野には光方式以外にインクジェット方式があり、これらを上回るようにはなっていないのが現状です。

 LEDはその発光波長の範囲が広がり、紫外線光源としても開発が進められています。紫外線光源としてはこれまで放電ランプあるいはレーザが使われてきました。これらをLEDで置き換えられるとランプを非常に小型にでき、消費電力を減らせる利点があります。紫外線ランプは医用分野での殺菌灯や工業分野でのレジストの露光、接着剤などの樹脂の硬化など広く使われていて、機器の小型化に大きく寄与する可能性があります。

 半導体素子は人間社会のなかで非常に大きな役割を担っていますが、通常はどこではたらいているのか目に着きにくいと思われます。そのなかでLEDだけは人の目に着く存在です。それだけにいま見えていない新しい展開がこれからもあるかも知れません。

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