光デバイス/発光ダイオード

 23.色をつくる

 前項まで発光ダイオードの材料の選択について紹介してきましたが、現在では赤外光、可視光全域そして紫外光の発光が実用的な発光ダイオードとして可能になっています。

 ところで現実の世界に満ちているのは太陽光です。太陽光には色がなく、これを人間は白色と呼んでいます。この白色の光を人工的に作るには赤、緑、青の光(三原色)を混ぜればよいことは小学校(中学校?)で教わるので誰でも知っています。

 上記のように、この赤、緑、青を発光する発光ダイオードは現在容易に入手できますから、これを組み合わせれば白色光が得られるはずです。そのような白色光源は太陽光の替わりをする照明光源として使えるので重要です。

 また白色以外のあらゆる色もこの三原色があれば、つくることができます。色のちがう発光ダイオードをたくさん並べればフルカラーのディスプレイ装置が実現できることになります。

 三原色を混ぜることを目的とした発光ダイオードシステムはつぎの3種類に分類できます。

(1)3色の発光ダイオード素子を並べる(1)。  図23-1のように3色の発光ダイオードを配線基板上に並べただけのものです。市販の電子部品としての発光ダイオード(半導体チップをパッケージに収めたもの)を使って誰でも簡単に作れますが、3つの素子をあまり近づけられないので均一な混色がしにくいのが欠点です。

(2)3色の発光ダイオードチップを1つのパッケージ内に実装する(2)。  図23-2のように赤色、緑色、青色のチップを1つのパッケージに実装したものです。一つのパッケージ内の狭いところに3つのチップを固定しなければなりませんが、チップ間が近くできるので混色がしやすく、1パッケージになるので取り扱いやすいのが利点です。

(3)1つのチップから3色の発光を得る(3)。 図23-3のように3色の半導体発光層を1チップに集積したものです。図の例で下から赤、緑、青の順に材料の違う半導体発光層を積層した構造となっています。1つの素子で3色を独立して発光させることができるので、素子としては理想的ですが、これまでに説明してきたように格子整合の問題をいかに解決するかなど難しい問題があると思われます。

 以上の考えは3色の発光素子を使うことが前提ですが、図23-4のような回路を構成して3つの発光素子に電流を流しますが、流す電流の調整など使用上やっかいな点もあります。これに対して1つの発光ダイオードと蛍光材料を組み合わせるという考え方もあります。発光素子が1つですむという利点があります。

 蛍光材料はある波長の光を当てると、その光(励起光といいます)より波長の長い光を出します(波長の短い光を出すものもありますが、特殊なものです)。これを利用してつぎの3通りの代表的な方法があります。

(1)紫外光を出す発光ダイオードを励起光の光源として使い、青色、緑色、赤色を出す蛍光材料と組み合わせる。  この3種類の蛍光材料に紫外光を当て、出てくる3色を混ぜれば、3色の発光ダイオードを光らせたのと同じことになります。

(2)青色光を出す発光ダイオードを励起光の光源として使い、緑色、赤色を出す2種類の蛍光材料に青色光を当てる。  出てくる2色と変換されずに残った青色光を混ぜれば、これでも3色の発光ダイオードを光らせたのと同じことになります。

(3)青色光を出す発光ダイオードを励起光の光源として使い、黄色を出す蛍光材料に青色光を当てる。  (1)と(2)は三原色を混色する方法でしたが、白色を得るには補色関係にある2色を混ぜる方法もあります。色の数が一つ少ないので簡便です。補色関係には緑色と赤色がありますが、青色と黄色の組み合わせもあります。青色発光ダイオードと黄色を出す蛍光材料の組み合わせがよく使われます。

 素子としては図23-5のように封止樹脂の中に蛍光材料の粉末を混ぜ込みます。発光ダイオードを青色発光ダイオードとし、蛍光体を青色光を受けて黄色に発光するものにすれば、蛍光体の間を通り抜けて出射される青色光と蛍光体で変換された黄色光が混合されて白色発光が得られます。

 物理学では光の色というとそれは光の波長を意味すると考えます。発光ダイオードや半導体レーザなどが発する光の波長は、厳密に言えば少し幅をもっていますが、基本的に1つの波長で起こるので、発光色と発光波長は対応させることができます。

 しかし人間の眼の知覚はまったく別です。白色が複数の波長の光を含んでいるなどとはまったく認識しません。白という1つの「色」を感じるだけです。人間の眼には単一波長の光か複数波長の光が混じっているかは区別ができません。

 しかし同じ白でも太陽光の色と白熱電球の色のちがいは区別できます。これを物理学的に表すと複数の波長のどれがどのくらい含まれているかを示すスペクトルという表し方になります。しかし太陽光のスペクトルと白熱電球の光のスペクトルを見比べても、人間の眼の認識する色の区別とは結びつきません。そこで、スペクトルとは離れて、この人間の眼が認識する色を数値的に表す方法を扱う色彩理論が編み出されました。この色彩理論については別にまとめて紹介します。

   

(1)特開平07-335942号

(2)特開平09-321341号

(3)特開平06-53549号