電子デバイス/半導体集積回路
3.半導体集積回路の発明(その1.キルビー特許)
トランジスタとしてはバイポーラトランジスタが先に実用化されたこともあって、最初の集積回路のアイデアはバイポーラトランジスタによるものでした。
集積回路の発案者はよく知られているようにテキサス・インスツルメント(TI)社のジャック・キルビー(Jack Kilby)氏で、2000年にはノーベル賞も受賞しています。一方、ほぼ同時期にフェアチャイルド社のロバート・ノイス(Robert Noyce)氏(後にインテル社の創設者の一人となる)も同様な発明をしており、どちらが早いか特許権をめぐって争いになりました。もっともこれより早く集積回路のアイデアはあったようですが、ここではそこまで立ち戻ることはしないことにします。
結局、基本的なトランジスタの集積という考え方ではキルビー氏の方が早かったことが認められましたが、その後のICの技術的な基礎となったのはノイス氏によるプレーナ方式でした。ノーベル賞はこの2人に授与されて然るべきでしたが、2000年の時点ではノイス氏は既に故人(1990年没)になっていました。
なお、キルビー氏の特許は日本で大きな争いを巻き起こしたことでも知られています。出願当時のアメリカの制度で、いわゆるサブマリン特許とすることが可能でした。この特許もICが普及する時期になって日本で登録され、TI社が日本のメーカーを特許侵害で訴え、多くの日本の会社は賠償金を支払いました。
しかし富士通社だけは最高裁まで争いました。この争いは特許法が改正されるきっかけとなるほどの大きな影響を残しましたが、これは技術的な話ではないので、ここでは立ち入りません。
さてキルビー特許は基礎となる米国特許が4件あります。対応した日本への出願もありますが、複数に分割されるなどいろいろ変遷しています。米国の基礎出願の技術的な内容を知るには基本となる一つを読めばよいと思います(1)。
この特許発明のもっとも重要なところは半導体基板にトランジスタだけでなく、抵抗器やコンデンサなどをも作り込むという考え方にあると思います。能動素子であるトランジスタを複数、組み合わせて作ることはすでに考えられていたようですが、回路を形成するには抵抗やコンデンサなどの受動素子を組み合わせることが必要です。それらをも含めすべてを半導体基板上に一括して作り込むというアイデアを提示したのはやはりキルビー氏が最初と言えるでしょう。
抵抗器は半導体がもっている抵抗値を利用すればできます。例えば図3-1(a)のようにp型基板上にn型半導体層を着け、その表面に2つの電極を付けます。抵抗値は電極間の距離を変えて調整することができます。またn型半導体層を加工して電流が流れる細い経路を作れば、その幅と長さを変えることによって抵抗値を調整できます。
コンデンサは半導体表面に誘電体膜を着け、電極を設けることによって実現できます。半導体層を利用するのであれば、pn接合ダイオードを利用すればよいことが示されています。図3-1(b)のようにpn接合を作り、その両側に電極を着けてpn接合ダイオードとします。逆バイアス状態にすれば空乏層が形成されて電流は流れず、コンデンサとして使えます、容量値は電極面積で調整できます。
さらに、抵抗とコンデンサを組み合わせて一素子として形成したり、螺旋状の電流路によりインダクタンス(コイル)も作れることが書かれています。トランジスタは図3-1(c)のようなメサ型バイポーラトランジスタが例示されています。このようにトランジスタ、抵抗、コンデンサが揃えば、半導体基板上に電子回路を作り込むことができます。これが半導体集積回路の基本的な考え方と言えます。
集積回路の一例として示されているのが図3-2ですが、この図はいろいろなところで引用されていて有名です。例示されているのはマルチバイブレータと言われるデジタル回路で、トランジスタ2個と抵抗、コンデンサから構成されています。
(1)米国特許3138743号(特公昭40-13217号)