科学・基礎/半導体デバイス物理
12.ショットキー障壁
金属-半導体接触によってできる障壁はスイス出身(主な研究活動はドイツ)の物理学者ショットキー(W.Schottky)の業績に因んでショットキー障壁(バリア)と呼ばれています。このショットキーによる理論は「半導体の理論と応用」にも紹介されていますが、以下に説明します。
まずはエネルギー障壁の形、電位分布 \(\psi \left (x \right )\) を求めます。これはpn接合の場合とほとんど同じ考え方です。図12-1(a)のように半導体中に一様な濃度の不純物準位(以下ではn型半導体中に一定濃度 \(N_{D}\) のドナー)があるとします。これに図12-1(b)のように電圧 \(V\) をかけた場合を考えます。
ドナーから励起された電子は障壁内の電界によって移動してしまうので、障壁内部はプラスに帯電したドナーが残ることになります。この一様に存在する正電荷によって障壁部分の電位変化が生じます。この電位変化を決めるのはpn接合と同様にポアソン方程式です。 \[\frac{\mathrm{d} ^{2}\psi }{\mathrm{d} x^{2}}= \frac{eN_{D}}{\varepsilon \varepsilon _{0}}\tag{1}\] この方程式は右辺が \(x\) に依存しないので \(\psi\) は \(x\) の2次関数になります。図12-1(b)のように境界条件は金属と半導体の界面を \(x=0\) とすると \[\psi = \psi _{0}~:~x= 0\] もう一つの条件は障壁(空乏層)の幅を \(D\) とすると、\(x=D\) では図12-1(b)のように電位の傾きはなくなるので、 \[\frac{\mathrm{d} \psi }{\mathrm{d} x}= 0,~~ \psi = V~:~x= D\] という2つの条件が出てきます。以上の条件で(1)式を解くと \[\psi = V+\frac{eN_{D}}{\varepsilon \varepsilon _{0}}\left ( Dx-\frac{1}{2}x^{2} \right )\tag{2}\] となります。障壁の幅 \(D\) も \[D=\left \{ \frac{2\varepsilon \varepsilon _{0}\left ( V_{D}-V \right )}{eN_{D}} \right \}^{1/2}\tag{3}\] と表されます。これより障壁の幅は印加電圧の平方根に比例して変化することがわかります。
厚さ \(d\)、比誘電率 \(\varepsilon\) の絶縁層を挟んで構成されるキャパシタの静電容量 \(C\) は \[C=\frac{\varepsilon \varepsilon _{0}}{d}\] で定義されるので、\(d\) を \(D\) で置き換えると、この障壁の静電容量は \[C= \left ( \frac{e\varepsilon \varepsilon _{0}N_{D}}{2} \right )^{1/2}\left ( V_{D}-V \right )^{-1/2}\] と書けます。これより \(C\) は \[\frac{1}{C^{2}}\propto -V\] の関係で電圧に依存することになります。すなわち図12-2に示すように横軸に \(V\)、縦軸に \(1/C^{2}\) をとってグラフを描くと直線関係が得られます。この直線の傾き \(\alpha\) は \[\alpha =\frac{2}{e\varepsilon \varepsilon _{0}N_{D}}\] と書けるので、誘電率 \(\varepsilon\) がわかっていれば、この傾きから不純物濃度 \(N_{D}\) を求めることができます。ただし不純物濃度が一定でないと、直線関係が得られませんから、不純物濃度が一定であるという前提が妥当であるかどうかについても知見が得られます。
さて、整流現象の解析に移ります。pn接合の場合と同様に電子電流が電子のドリフトと拡散によっていると考えたのもショットキーです。電子電流 \(J_{n}\) は \[J_{n}= e\left \{ n\left ( x \right )\mu E\left ( x \right ) +D_{n}\frac{\partial n}{\partial x}\right \}\] と表されます。ここで \(n\left ( x\right )\) は電子の濃度、\(\mu\) は電子の移動度、\(E\left ( x\right )\) は電界、\(D_{n}\) は電子の拡散定数です。上式を電位 \(\psi\) を使って書き直すと \[J_{n}= eD_{n}\left \{ -\frac{qn\left ( x \right )}{kT}\frac{\partial \psi \left ( x \right )}{\partial x}+\frac{\partial n}{\partial x} \right \}\] となります。ただしアインシュタインの関係を使って \(\mu\) を \(D_{n}\) で表しました。
\(J_{n}\) は定常電流とすると、もちろん \(x\) の関数ではありません。一方、障壁内の電位 \(\psi\) は \(x\) に依存しています。この場合、この式を積分するにはちょっとテクニックを使います。両辺に \(\exp \left [ -e\psi \left ( x\right ) /kT \right ]\) をかけてから積分します。すると右辺の第1項はうまいことに消えてくれますので、 \[J_{n}\int_{0}^{D}\exp \left \{ -\frac{e\psi \left ( x \right )}{kT} \right \} \mathrm{d}x=eD_{n}\left [ n\left ( x \right )\exp \left \{ -\frac{e\psi \left ( x \right )}{kT} \right \} \right ]_{0}^{D}\] が得られます。この積分を行うのに電位 \(\psi \left ( x\right )\) と電子濃度 \(n \left ( x\right )\) の \(x=0\) と \(x=D\) における値を境界条件とします。 \[\begin{align} \psi \left ( 0 \right ) &= -\psi _{0} \\ \psi \left ( D \right ) &= V_{D}-\psi _{0}-V \\ n\left ( 0 \right ) &= N_{C}\exp \left ( -\frac{e\psi _{0}}{kT} \right ) \\ n\left ( D \right ) &= N_{C}\exp \left ( -\frac{e\psi _{0}-V_{D}}{kT} \right )\end{align} \] これより \[J_{n} = \frac {eN_{C}D_{n}\left \{ \exp \left ( \frac{eV}{kT} \right )-1 \right \}}{\int_{0}^{D}\exp \left \{ - \frac{e\psi \left ( x \right )}{kT}\right \}\mathrm{d} x}\] が得られます。ここでショットキー障壁の電位分布(2)式を代入して積分を実行し、(3)式の関係を用いると \[\begin{align} J_{n} &\simeq \frac{e^{2}N_{C}D_{n}}{kT}\left \{ \frac{2e\left ( V_{D}-V \right )N_{D}}{\varepsilon \varepsilon _{0}} \right \} \\ &\times \left [ \frac{\exp \left ( \frac{eV}{kT} \right )-1}{1-\exp \left \{ -\frac{2e\left ( V_{D}-V \right )}{kT} \right \}} \right ] \end{align}\] が得られます。ここで \(V\) が正の場合が順バイアス、負の場合が逆バイアスに相当します。
ここで \[eV_{D}\gg kT\] の場合を考えれば、上式で逆バイアスの場合、順バイアスでも \(V\) が小さい場合は次のような近似ができます。 \[\begin{align}J_{n} &= \frac{e^{2}N_{C}D_{n}}{kT}\left \{ \frac{2e\left ( V_{D}-V \right )N_{D}}{\varepsilon \varepsilon _{0}} \right \}^{1/2}\exp \left ( -\frac{e\psi _{0}}{kT} \right ) \\ &\times \left \{ \exp \left ( \frac{eV}{kT} \right ) -1\right \}\end{align}\] 上式の上段を \(J_{0}\) と置けば、 \[J_{n}=J_{0} \left \{ \exp \left ( \frac{eV}{kT} \right ) -1\right \}\] が得られます。この電流の電圧依存性はpn接合の場合と同じですから、図12-3に示すように、順バイアスでは電流が急増しますが、逆バイアスは一定に近づきます。言い換えれば整流特性が得られることがわかります。