電子デバイス/バイポーラトランジスタ

11.ヘテロ接合バイポーラトランジスタ

 広く使われているシリコンのバイポーラトランジスタは不純物の熱拡散によって作られるため、基本的にp層、n層ともシリコンになります。このような接合をホモ(同種)接合と言います。しかし各層をエピタキシャル成長によって作る場合は何もpnpまたはnpnのすべての層を同一材料にする必要はとくになくなり、発光ダイオードや半導体レーザでは普通に使われているヘテロ(異種)接合を使ってもよいことになります。ヘテロ接合を使ったバイポーラトランジスタをヘテロ接合バイポーラトランジスタまたはヘテロバイポーラトランジスタ、略してHBTなどと呼んでいます。

 バイポーラトランジスタにヘテロ接合を使うという考え方はトランジスタの発明当時からありました。ショックレーの最初の接合トランジスタの特許(1)にすでに書かれています。

 もちろんこの特許が書かれた時点ではホモ接合のトランジスタすら作られていないので、ヘテロ接合のトランジスタもアイデアだけです。例示されているシリコンとゲルマニウムの組み合わせは格子定数が違いすぎる(格子定数差:約4%)ので、実際に作るのは困難で、その後もこの組み合わせのトランジスタは作られていないと思います。

 しかしヘテロ接合を使うとホモ接合よりも何がよいのかについては的確な指摘がなされています。挙げられている例ではエミッタがシリコン(室温のバンドギャップエネルギー:1.12eV)、他がゲルマニウム(同:0.67eV)ですから、エミッタにバンドギャップエネルギーの大きい材料を使っています。この場合npnトランジスタのエネルギーバンド図は図11-1のようになります。

 今までバイポーラトランジスタの原理の説明で、npnトランジスタの場合、電子だけに注目し、正孔は数が少ないので無視してきました。しかしHBTの利点はこの正孔の流れに関係しています。

 n型半導体中の正孔の濃度は電子とは桁違いに少ないですが、0ではありません。電子がエミッタからベースに注入され、コレクタから引き出されるように電圧がかけられていると、正孔は少ないながら逆方向に流れ、全体の電流の一部として寄与しています。

 しかし電子の流れとは量だけでなく、流れ方がかなり違います。まず電子はn型のエミッタに大量に存在しますが、正孔の入り口のコレクタはn型ですから正孔は少数です。ベースがp型なので、むしろベースには大量に正孔が存在します。この場合、どういうことが起こるでしょうか。

 正孔は電位差に沿って流れようとしますが、コレクタから十分な量が補給されません。そのためベースの正孔がエミッタへ向かって流れると、不足分の正孔はベース電極から補給されます。つまりベース電流が流れることになります。

 トランジスタの増幅作用にとってはベース電流はできるだけ小さい方がよく、コレクタ電流がエミッタ電流に近いほどよいということは前に説明しました。図11-1をみるとエミッタ-ベース間の正孔に対する障壁がホモ接合の場合より高くなっていることがわかります。この場合、ベースの正孔濃度が高くても正孔はこの障壁にブロックされてエミッタへ拡散しにくくなります。つまりベース電流はホモ接合の場合より減るのです。

 このためヘテロ接合を使ったトランジスタは増幅率が大きくできます。これは高周波特性にとっても良いことがわかっています。そこで発光ダイオードや半導体レーザで実績のあるAlGaAs/GaAsヘテロ接合を使ったHBTが研究されてきました。

 その他、Ⅲ-Ⅴ族のInP系のヘテロ接合、あるいはSiGeといったⅣ族同士の混晶やSiCのようなシリコンを含む化合物とSiとのヘテロ接合などのアイデアがあります。しかし、なんといっても近年注目されているのが、青色発光ダイオードの材料として注目されたGaNなどの窒化物半導体を用いたトランジスタです。これについては次項で取り上げます。

(1)特公昭25-471号 (2)特開2002-305204号