電子デバイス/薄膜トランジスタ

10.シリコン系以外のTFT

 これまでアモルファスSiと多結晶Siを用いたTFTを取り上げてきましたが、これらシリコン系以外の材料を用いたTFTも開発され、一部実用域に達しているものもあります。ここでは酸化物半導体系と有機半導体系の二つに注目します。

1.酸化物半導体TFT  酸化物半導体には、例えばSnO、In、ZnOなど透明導電膜として知られる材料が含まれます。これらの材料でTFTを作製すれば、透明なTFTが得られ、液晶ディスプレイではTFTによる遮光を気にしなくてよくなることが期待されます。

 またTFTの材料としては動作速度が速いことが求められますから、キャリアの移動度が少なくともアモルファスSiより大きいことが望まれます。このような観点で1990年代の終わり頃から材料の探索が行われ、有力な材料として見いだされたのがInGaO(ZnO)(mは整数)というZnOベースの材料です(1)。IGZO(イグゾーと読むこともあります)と略称されます。

 TFT用に使われるのはアモルファスのIGZOです。高周波スパッタリングなどで成膜しますが、基板は加熱する必要がなく、成膜後、150℃程度で熱処理すればよいので、プラスチック基板にも成膜ができます。

 この材料のバンドギャップエネルギーは3.3eV以上で、もちろん可視光に対して透明です。移動度は5~10cm/Vsの値が得られアモルファスSiより大きい値が得られています(2)

 TFTの素子構造はとくに制限されず、コプレナーでもスタガでも可能です。2012年には実際にこれを搭載した液晶ディスプレイのテレビが製品として世に出ています。

2.有機半導体TFT  有機分子には半導体の性質をもつものがあることは古くから知られていました。すでにこれらは太陽電池や有機ELに応用され、有機ELは実用レベルに達し製品が出ています。

 ということは当然有機トランジスタがあってよいことになります。有機物は薄い膜にすることが可能ですから、薄膜トランジスタができても不思議ではありません。

 有機物は一般に柔らかい性質をもっていますから、例えば有機ELでも樹脂基板を用いれば曲げることが可能となり、曲面上での表示が可能になるという特徴があります。この場合、駆動用のTFTも有機物であれば、より好ましいと言えます。

 有機材料の特徴は高分子、低分子とも非常に種類が多いということです。1990年代後半には有機材料が広く探索されTFTが試作されました。その中で比較的移動度の大きい材料としてペンタセンなどが見いだされました。真空蒸着で薄膜を形成し、逆スタガ構造のTFTが試作されています(3)。移動度はアモルファスSiに匹敵する0.1cm/Vsのオーダーでした。

 その後、材料の探索は続けられ、2010年代になって移動度が10cm/Vsを越えるルブレンという材料も発見されています(4)

 もう一つ、有機材料には成膜技術への期待があります。印刷、塗布という方法です。溶剤に溶かした有機材料を基板上に塗布し、溶剤を乾燥除去するだけで薄膜ができます。この方法によれば、真空成膜装置が不要になり、低コスト化が進むはずです。

 しかしどの物質も塗布で成膜できるかというとそうでもないようです。例えば上記のルブレンもそのままで塗布するのは難しく、溶媒に溶けるように分子構造を修飾する必要があります(5)。移動度などの特性を維持しつつ溶解可能に分子構造を修飾するのはそれほど簡単ではないようです。

(1)特開2004-103957号

(2)特開2011-216574号

(3)米国特許US5981970号

(4)特開2013-38127号

(5)特開2015-199670号