産業/標準化

4.標準化を行う手続き

 前項でデジュール標準についてまとめてみましたが、それぞれの組織ではどのような手続きを踏んで規格を作成しているのでしょうか。この項では規格の策定手続きの概要を取り上げます。

 組織としては世界全体をカバーするものから一企業内の範囲までいろいろな規模のものがありましたが、標準化の手続きは大きく言えば二つに分けられます。

 1つは日本のJISのように、国、政府が主体となるタイプです。国は提案された対象を含めて標準化の対象を決定し、自らの責任において規格を作成し、公表します。

 もう一つはISOのように対等なメンバーの合議によって規格を策定するタイプです。メンバーのなかからの提案が行われ、合議により規格が作成され、承認されます。国際標準だけでなく国内標準においても民間団体に任されている場合があります。また団体規格も加盟したメンバーによる合議によって規格を作成します。

 上記どちらの場合でも規格の策定においてしなければならない作業はほぼ同じで、おおよそつぎのようになります(図4-1参照)。

(1)新規項目の提案・・・新たに標準化を進めたい企業や団体などはその素案を作成して標準化組織に提案します。

(2)規格案の作成・・・標準化組織が標準化を認めた場合には、関連分野の専門家を集めて規格案を作成します。

(3)承認・・・標準化には利害関係者が存在するので、一定の規則のもとに規格として承認を得ます。

(4)発行・・・標準化組織は規格として公表、周知します。

(5)改訂、廃止・・・標準化組織は一定期間経過後に、専門家の意見に基づき、技術の発達に伴う規格の修正または廃止を行います。

 身近なJISの例を説明してみましょう(図4-2参照)。JISは産業標準化法という日本の法律に基づいて作られます。制定するのは上記の通り国です。関係する官庁は複数ありますが、全体の9割近くは経済産業省の所管です。法律上の行為をするのは人ですから、関係官庁が行う行為はそれを代表する大臣が行います。この大臣のことを主務大臣と呼んでいます。

(1)素案の作成(新規項目の提案)

 工業製品など大体の標準化対象の提案は、関係専門分野の企業団体などが行います。実際には各分野ごとに標準化を取り扱える官庁から指定された団体があり、関係企業はこの団体のメンバーになります。団体はメンバー企業からの提案を受けた場合、委員会を招集して素案を作成します。この委員会には製品の生産を行う企業、利用者、消費者の代表、中立の立場の学識経験者などによって構成されます。素案ができると、この団体から主務大臣に申し出が行われます。主務大臣は標準化の必要があると判断した場合には、日本産業標準調査会(JISC)にその標準化について審議し答申するよう付議します。

 主務大臣自身の発意でも標準化を進めることができます。民間からの提案がなくても国に標準化の意思があれば、認定産業標準作成機関という組織などに規格の作成を委託すれば規格を作成することができます。

 一方、認定産業標準作成機関が原案を作った場合には、JISCへの付議を要さず標準化が行えるという制度(2019年新設)もあります。作業期間を短縮することを意図した制度です。なお、認定産業標準作成機関としては日本規格協会(JSA)などがあります。

(2)審議

 JISCは専門委員会において主務大臣から付議された原案の審議を行います。標準の制定については利害関係が生じます。標準化によって自社製品の市場が広がる場合もありますが、逆に狭まってしまう場合もあります。また消費者にとっても利便性が増える場合もありますが、制約が多くなってしまうこともあります。

 このため審議は製造者、消費者、中立の学識経験者などいろいろな立場の人が参加して行われます。最終的にはJISとして制定すべきかが議決され、主務大臣に答申されます。

(3)制定・公示

 答申を受けた主務大臣は、JISの制定を行い、その旨の公示します。

 この公示によって、名称、番号、制定年月日が官報に掲載されますが、規格内容そのものは官報には掲載されません。内容は役所へ出向けば閲覧できますが、JISCのウェブサイトで見るのが便利です(7項参照)。ただし著作権があるのでダウンロード、コピーはできません。規格集としてまとめた書籍も定期的に出版されていますが、発行に随時対応できるものではないので、最新の状態が見られるわけではありません。

 JISについては国が発行する公文書であるにもかかわらず、著作権が存在するとされています。確かに膨大な技術情報を含む文書ではありますが、本来公文書は著作権の範囲外のはずで、この点については議論の残るところです。

(4)確認、改正または廃止

 主務大臣は、JISの制定の日から5年以内に、それがなお適正であるかをJISCに付議することになっています。JISCの答申に基づいて、主務大臣はJISの確認、改正または廃止を行います。確認、改正の後も5年以内に適正であるかの審査が繰り返されます。

 年月が経過しても規格が適正であると認めるときは、規格は「確認」されます。年月の経過にともなって技術に進歩があり規格を改める必要があると認められるときには、規格は「改正」されます。また技術の置き換えが起こるなどして規格がもはや不要になったと認められるときは、規格は「廃止」されます。

 主務大臣は、JISを確認、改正または廃止したときには、制定したときと同様に、その旨を公示します。JISの番号には制定の年号が記されます。この年号は改正がされたときに変更されますので、最新版を確認できます。

 JISのような国別の標準は必ずしも国家が管理しているとは限りません。というかアメリカやヨーロッパの主要国の標準は民間団体が管理しています。アメリカのANSIやドイツのDINなどはいずれも民間団体です。国が管理しているのは日本や韓国などアジアに多いようです。

 このため最初に触れたように、標準を作る手続きもJISのように国が介在する場合としない場合とでは異なってくることになります。ここでは他国の制度には立ち入りませんが、国際規格のISOやIECの制度を少しみておきます。これも加盟メンバーの総意で決める民間団体による標準の作成の一種とみなせると思います。

 ISOの場合、国に相当するような最高決定機関がなく、平等な権利をもつ加盟メンバーによって構成されているので、提案の採択も原案の採択もすべて参加メンバーによる投票によって決定されます。採択の可否の基準も単なる多数決でなく細かく決められています。利害関係のある国間での合意のために必要な考え方と思われます。

 図4-3に示すように、まず新規作業項目の提案が行われます。これが参加メンバーの投票によって採択がされると、作業原案(Working Draft,WD)が作成されます。これが作業メンバーの専門家による合意が得られれば、つぎに委員会原案(Comittee Draft, CD)が作成されます。これが委員会メンバーによる投票で議決されると、国際標準原案(Draft of International Standard, DIS)が作成されます。これについても投票が行われ、議決されれば最終国際標準原案(Final DIS,FDIS)が作成されます。ここでも投票が行われ、国際標準(IS)の発行が決定されます。

 このような手順を踏むと提案から発行まで3年程度の時間がかかってしまいます。そこでJISの場合と同様に手順を省く方法もあります。これはすでに国家標準などが策定されていることが条件になります。たとえばJISが制定されていてISOに対応する規格がない場合にこれを提案した場合などは、WD,CDの作成を飛ばしてDISの作成から始めることができます。これをファースト・トラック制度と呼んでいます。