産業/標準化

3.デジュール標準

 この項では誰が標準化を行っているのか、についてまとめます。

(1)国際標準

 適用範囲が広い方から順にいくと、全世界に適用される規格があります。これは国際標準化機構(ISO,Internasional Organization for Standardization)が策定する規格です。  ISOは1946年に設立された非政府組織で、加盟するのは各国の政府そのものではなく、各国の標準化団体が加盟することになっています。日本からは日本産業標準調査会(JISC)が1952年に加盟しています。

 現在約20000の規格が制定されており、ISO 1から通し番号が付けられています。規格の番号と名称を調べるにはWIKIPEDIAの「国際標準化機構が定める国際標準一覧」が便利です(7項参照)。

 ただし電気関連の分野に関しては国際電気標準会議(IEC)、通信分野は国際電気通信連合(ITU)、という組織が分担しています。対象によってISOとIECが共同で標準の策定を行うこともあり、その場合、規格番号はISO/IECと表記されます。ITUは上記2つの組織とは違って国連の組織です。標準化だけでなく、無線周波数や海底ケーブルの割り当てなど国際的調整が必要な役割も担っています。標準化部門はITU-Tと呼ばれています。

(2)国内標準

 つぎのレベルは各国内に適用される規格です。日本においては日本産業規格(JIS, Japan Industrial Standard)が制定されています。2013年までは日本工業規格と言っていましたが、改められました。工業というと「ものづくり」のイメージですが、前項でも触れたように、最近は物そのものというよりも情報とか品質といった直接物ではない関係の規格が増えていているので、工業より広い意味をもつ「産業」が採用されたと思われます。

 他の多くの先進国も国内規格をもっています。例えばアメリカはANSI、ドイツはDINと呼ばれる規格を定めています。ANSIはアメリカ規格協会(American National Standards Institute)、DINはドイツ規格協会(Deutsches Institut fur Normung)、いずれも標準化制定機関を示す略号です。

(3)地域標準

 複数の国が協定した標準もあり、地域標準と呼ばれます。この代表は欧州規格です。欧州標準化委員会(CEN,European Committee for Standardization)という組織により運営されています。国際標準化機関に対応して、電気分野(CENELEC)と通信分野(ETSI)は分離した機関になっています。

 規格は各国ばらばらより世界で統一されている方が好ましいのですが、各国それぞれの事情、例えば国ごとの技術発展の経緯などがあり、世界規格にすべて合わせることが困難な場合があります。この場合は国内だけの規格をもつことも必要です。ただ日本のJISのように、すでに国内規格が制定されている場合であっても可能なら国際規格に統合する努力も行われています。日本に規格がなく国際規格が先に制定された場合には、国際規格を翻訳してJISにすることもあります。

(4)団体標準

 国家より狭い範囲の民間団体による標準も多く存在します。日本の電気関係分野には「信頼性の話」でも紹介した電子情報技術産業協会(JEITA)があります。JISではカバーしきれない部分を補完する役割を担っています。海外にも標準を策定している団体があります。例えばアメリカのJEDEC(Joint Electron Device Engineering Council、半導体技術協会)は半導体分野の規格を作っています。

 学会でも標準を策定していることがあります。アメリカの電気電子学会であるIEEE(Institute of Electrical anad Electronic Engineers)の無線LANの規格はほぼ世界標準になっています。

(5)社内標準

 さらに狭い範囲の標準として社内標準があります。製造会社では製造方法や製品の検査方法などを社内で標準化している場合が多いです。これは品質管理にはもちろん、社内での技術伝承にも重要です。このような性格上、通常は非公開です。

 このような規格を制定する組織があって、この組織が標準化の対象となる技術分野の専門家を集め、一定の手続きを踏んで策定される規格をデジュール標準(de jure standard)と呼んでいます。"de jure"はラテン語で「正式な」といった意味があるそうです。しかしこのような組織によらない事実上、標準になっているものもあり、これについては6項で触れます。