科学・基礎/半導体物理学

24.エネルギーバンド

 前項の(19)式    \[\frac{mV_{0}bd}{\hbar^{2}}\frac{\hbar}{p_{1}d}\sin\frac{p_{1}d}{\hbar}+\cos\frac{p_{1}d}{\hbar}= \cos{kd}\tag{1}\] は、クローニッヒ・ペニーポテンシャルがある場合のシュレディンガー方程式の解そのものでなく、巡回境界条件のもとで波動関数が定まる条件を示す式です。ではありますが、ここから電子がもつエネルギーについて重要な知見が得られます。

 (1)式の左辺の関数を \(y\) とし、\(p_{1}d/\hbar\) を変数 \(x\) と置いた    \[y= \frac{c}{x}\sin{x}+\cos{x}\] を前項ですでに図示しましたが、これをもう一度示します(図24-1)。ただし、\(c\) は定数で、図では \(c=1\) としました。

 さてもう一度(1)式をみると、右辺の関数は単純なコサイン関数です。コサインは+1と-1の間の値しかとりません。ところが図を見ると(1)式左辺は \(x=0\) 付近で 1 を大きく越える値になっています。さらに図25-1をよく見ると、\(x=0\) 付近以外にも \(x=\pm\pi,\pm 2\pi \cdots\)の付近で \(\pm 1\) の範囲を僅かながら超えているところがあるのがわかります。

 詳しく見るために \(x=\pi\) 付近と \(x=2\pi\) 付近を拡大して示したのが図24-2です。\(x=\pi\) から狭い区間ですが \(y\) の値が -1 よりも小さくなっている部分があります。図は \(c=1,2,3\) の3種類の場合も示していますが、\(c\) の値が大きいほど、\(y\) が -1 より小さくなる区間は広がっています。\(x=2\pi\) 付近でも \(y\) が 1 を越える区間があります。ただその幅は \(y=\pi\) のときよりも狭くなっています。

 この \(y\) の値が \(\pm 1\) を越える区間では(1)式の等式が成り立たせることはできません。つまりこの区間となるような状態はありえないことになります。図24-3図24-1と同じ図ですが、許されない区間を色を付けて示しました。

 図24-1図24-3が物理的に何を示しているかをもう少し考えてみます。もとに戻ると    \[x= p_{1}d/\hbar\] でした。また    \[p_{1}= \sqrt{2mE}/\hbar\] ですからエネルギー \(E\) は \(x\) の2乗に比例する変数であることがわかります。

 一方、(1)式の右辺の値は \(kd\) の値によって決まります。するとその右辺の値に左辺の関数の値 \(y\) が等しくなるように \(x\) 値を決めることができます。\(x\) が決まれば、\(kd\) を横軸、\(x\) の2乗の値を縦軸にとって(1)式の関係をグラフを描くことができます。これは \(k\) と \(E\) の関係を示すグラフです。

 ただし例えば図24-2(a)の例で \(y\) の値が -1 となる2つの点では両方とも \(kd=\pi\) と考えます。図24-2(b)では \(y\) の値が 1 になる2つの点で \(kd=2\pi\) とします。また図25-3の \(x=0\) にもっとも近くて \(y=1\) となる正負2点で \(kd=0\) とします。他の不連続点も同様にします。それらの中間の点は \(y\) の値から \(kd\) の値を \(\cos^{-1}(y)\) を求めて逆算します。

 こうして計算した \(kd\) と \(E\) の関係を図24-4(a)に示します。全体的には \(E\) が \(kd\) に対して2次関数の形になりますが、\(kd=\pm\pi、\pm 2\pi\) で \(E\) が不連続になるのがわかります。これは、この不連続区間のエネルギーを電子がとることが許されていないことを示しています。図24-4(b)(a)の一部を拡大したものです。エネルギーに \(\Delta E_{1}\)、\(\Delta E_{2}\) というギャップが生じています。

 電子がとることができる連続的なエネルギーの範囲(図24-4の曲線が描かれている範囲)を許容帯といい、ギャップになっているエネルギー範囲を禁制帯(または禁止帯)と言います。

 以上から周期的なポテンシャルエネルギーがある系では、電子のエネルギーは帯(バンド)のようにある幅は連続的にとりうることになり、そのバンドとバンドの間にとることのできないギャップができることがわかります。

 ただこれは数式の展開からコサインの値が \(\pm 1\) の間しかとれないためにそうなったとしか言えず、物理的にどうしてそのようなことが起こるのかはもう少し詳しく検討する必要があります。