産業/特許

1.はじめに

 このページでは引用文献として特許を多用しています。その理由については「このページの詳細について」で説明していますが、要は技術情報が豊富に入手できるからです。しかし本来の特許の目的は技術情報の提供ではありません。特許の目的は発明の保護です。 保護のためには強い権利を発明をなした人に与えることになりますので、これは公正になされなければなりません。そこで特許の権利を得るための手続きから違反した者の処罰まで細かく法律(特許法)に規定されています。

 ここでこれらの法規定について事細かに説明することは到底無理ですし、多くの方にとっては必要がないと思います。しかし半導体技術にとっても特許は重要な意味をもっていますので、最低限知っておいていただきたい点についてまとめたいと思います。

 手続きなどの説明は退屈なものですが、法律の規定にはなぜそのような規定が必要なのか、それぞれ意味があります。その意味、趣旨を中心に説明します。

 こういった説明は、実例に沿って行った方がよりわかりやすいと思います。そこで着目したのが青色発光ダイオードの実現のために必須の技術となった窒化ガリウム(GaN)系の結晶成長から発光素子の構造に至る発明群です。この業績は2014年のノーベル物理学賞受賞に結び着きました。受賞者は改めて紹介するまでもなく、赤崎勇、天野浩、中村修二の3氏です。赤崎氏が松下電器社において青色発光ダイオード用材料として着目したGaNについて名古屋大学に移って天野氏とともに結晶成長の基礎が作られました。これをさらに発展させ青色発光ダイオードの実用化に結び付けたのが日亜化学工業社時代の中村氏です。中村氏は後に職務発明の対価について訴訟を起こしたことでも大きな話題になりました。

 このページの元になったブログはじつはこの訴訟が話題になっていた2005年に、訴訟の対象になった特許の成立過程を説明しようと始めたものでした。そこからすでに約15年が経過しています。現時点(2020年)で特許制度を説明するための例題にするには少し古くなってはいますが、中村氏が出願した特許は当時の激しい開発競争に曝され、多くの過程を経ていますので、この経過を追いながら説明すると、特許について一通りの理解が得られると考えました。

 説明は特許に書かれている具体的技術内容、特許制度、手続きなど法律面や特許の調査方法など多面的になります。それらが錯綜すると分かりにくいと思いますので、技術内容については<技術>、手続き、法律面は<法律>、調査方法などは<調査>と各項に表示して内容を明確化することにします。