科学・基礎/結晶光学

2.光と物質の相互作用-反射・屈折・偏光・散乱

 まずはじめに光がある物質から性質の違う他の物質に入射するとき起こる現象を復習しておきます。一方は物質でない宇宙空間のような真空であっても構いませんが、特殊なことは除いて普通に空気から水へなどを考えればよいです。

反射・屈折

 反射と屈折は誰でも知っている日常的によく見かける光の現象です。反射はよく使われる鏡という実用的な道具?があるので身近です。平らな金属の表面では入射してきた光がほとんどすべて反射されますが、ガラスなどの透明な物質の表面では一部の光が反射され、残りは物質中に進入します。このとき光の進行方向が曲がるのが屈折現象です。

 屈折については理科の教科書に、お椀の水にお箸を差し込むと、まっすぐなはずのお箸が水面を境に折れ曲がって見えるという例が取り上げられることが多いと思います。この現象は空気中から水面に光が入るとき、進行方向が変わるために起こります。なぜ曲がって見えるのかは空気中の光の速度と水の中での光の速度が異なるためと考えると、つぎのように説明ができます。

 図2-1のように、光線の束(光束)が空気中から斜めに入射角 \(\theta_i\) で水面に入射するとします。ここで赤の破線で示すのは波面です。例えば沖から海岸に向かって打ち寄せる波の波頭が横に一直線(平面)になっているのを見ることがありますが、このような波を平面波と言います。このときの平面を波面といいます。後の項でまた説明しますが、ここで「波面」とは例えば水面の波であれば山同士または谷同士を結ぶ面のことです。

 図に戻って、このような光束の波面は、図の左端が右端より早く水面に達し、水中に入ります。波面の右端が水面に達するまでの間、左端の光束の一部は水中を進むことになります。空気中の光の速度(これを位相速度といいます)を \(v_1\)、水中での光の速度を \(v_2\) とします。空気中の光の速度は真空中の光速 \(c\) とほぼ等しい値です。\(v_2\) は \(c\) より速いことはあり得ず、\(v_2 \lt v_1\) です。

 光束の左端が水面の到達してから右端が到達するまでの時間を\(t\)、\(\mathrm{OP}\)間の距離を \(d_{\mathrm{OP}}\)、\(\mathrm{O'P'}\)間の距離を \(d_{\mathrm{O'P'}}\) とすると、\(d_{\mathrm{OP}}\lt d_{\mathrm{O'P'}}\) なので \(v_2 t\lt v_1 t\) です。2つの直角三角形\(\bigtriangleup\mathrm{OP'O'}\)と\(\bigtriangleup\mathrm{OP'P}\) を考えると\(\angle\mathrm{O'OP'}=\theta_i \)、\(\angle\mathrm{OP'P}=\theta_r \) ですから、2つの直角三角形の共通の斜辺である\(\mathrm{OP'}\)の長さを \(d_{\mathrm{OP'}}\) とすると\(d_{\mathrm{OP'}}\sin \theta_i \gt d_{\mathrm{OP'}}\sin \theta_r\) が成り立ち、\(\theta_i\)、\(\theta_r\) はともに90°より小さいので \(\theta_i \gt \theta_r\) であると言えます。

 以上から光束が屈折率の異なる物質へ入射する際、その境界面で屈曲することがわかります。すなわち屈折率の小さい物質から屈折率の大きい物質に入射した光の屈折角 \(\theta_r\) は入射角 \(\theta_i\) より小さくなります。ただしこれは入射角 \(\theta_i\) や屈折角 \(\theta_r\) を水面(屈折率の境界面)に垂直な線(法線)からの角度にとった場合に言えることです。このようにとるのが原則ですが、ときどき違うとり方をすることもありますから、取り違わないように注意が必要です。

 最初に触れたお箸の曲がりの話ですが、お箸自体はもちろん水に漬けてもそこで曲がることはありません。空気の側から水中を見ている人は境界で光が曲がっているとは思いませんから、お箸はまっすぐ見えると予想します。ところが実際は光の方が深い方向に曲がっていますから、お箸は逆に浅い方向に曲がってみえるのです。

 またここで \(\theta_i\)、\(\theta_r\)、\(v_1\)、\(v_2\) の間に

\[\frac{\sin\theta_i}{\sin\theta_r} = \frac{d_{\mathrm{O'P'}}}{d_{\mathrm{OP}}} = \frac{v_1}{v_2}\tag{1}\]

という関係が得られます。ここで屈折率をその物質中での光の速度と真空中での光の速度 \(c\) の比と定義します。すなわち、物質1の屈折率を \(n_1\)、物質2の屈折率を \(n_2\) は

\[n_1 =\frac{c}{v_1}~~~~~n_2 =\frac{c}{v_2}\tag{2}\]

などとなります。屈折率は1より大きい数であり、物質中での光の速度が遅いほど大きくなります。ここでは物質1を空気と考えていますので、\(v_1 \simeq c\) です。したがって空気の屈折率は \(n_1 \simeq 1\)です。また(1)、(2)式より

\[\frac{\sin\theta_i}{\sin\theta_r}=\frac{n_2}{n_1}\tag{3}\]

という関係が成り立つことがわかります。これをスネル(Snell)の法則と言い、屈折に関する基本的な法則となります。

 一方、図には描いていませんが、入射光の一部は境界面で反射されます。反射角はもちろん入射角 \(\theta_i\) に等しくなります。

 光の入射は、空気中からでも水中からでも関係は当然同じです。ただし水中からの場合、屈折角が90°を越えると光は空気側に出られなくなり、境界面ですべて反射されるようになります。このときの水側からの入射角 \(\theta_c\) を臨界角といい、水側への反射を全反射といいます。臨界角は

\[\sin \theta_c =\frac{n_1}{n_2}\]

の関係で表されます。

 ここまで空気と水の境界面での現象を考えてきましたが、空気を低屈折率の物質、水を高屈折率の物質と置き換えれば、どんな物質でも同じように考えることができます。ただし屈折については入射光の波長における吸収が少ない物質が対象です。光の吸収が大きい物質には光が入り込めないため、屈折現象を観測できません。

偏光

 この他に光には偏光という現象があります。これは日常生活ではあまりなじみがないと思われます。サングラスの一種の偏光眼鏡があるぐらいでしょうか。

 これは光が電磁波であり、電界と磁界が波として振動していることを知っていないと説明ができません。この電界の振動方向が揃っている光を偏光している光、あるいは単に偏光といいます。日常的にみる太陽光など一般の光は多くの偏光が混じり合った光で偏光に特有な現象は観察できません。 一般の光から偏光を作るには偏光子という光学素子を使います。偏光眼鏡も偏光子の一種と言えます。日常の光からある偏光した光だけを取り出すことによって、眩しさを和らげることができます。

 結晶は原子が規則的に並んでいるので、光が入射したとき偏光の現象が起こることがあります。しかし偏光は電磁波の理論を使わないと説明が難しいので、この後の4~6項で取り上げます。

光散乱

 もう一つ、光が物質に入射するときに起きる現象があります。光散乱がそれです。

 金属のようなもともと反射率の高い物質に光が入射した場合、反射が起きて表面が輝いているのですが、鏡のように像が映らない場合があります。これは例えば、表面に細かい凹凸がある、荒れた表面などで起こります。反射光が多くの方向に散らばってしまうことにより、光の散乱という現象です。散乱は、表面の凹凸に限らず物質内部に不均一がある場合などでも起こります。これのような微粒子による光散乱には光の波長より直径の小さな粒子によるレイリー散乱と、波長より大きな粒子によるミー散乱という2種類があります。さらに光散乱には光と物質内の電子や格子振動との量子力学的な相互作用で起こるものもあります。これらは結晶光学からはやや離れた話題になりますので、深く立ち入りません。