科学・基礎/結晶光学

1.はじめに

 結晶に光を当てるとどのような現象が観察されるでしょうか。これらの現象をいろいろな角度から考えるのが結晶光学です。

 まずは重要なのが、結晶が光を通過できるかできないかです。ダイヤモンドのような透明な結晶は光を透過しますが、シリコンの結晶は透過しません。ただ日常的にこのようなことを言う場合、光は目に見える(可視光である)ことが前提にされています。ダイヤモンドは可視光は透過するのですが、波長の短い紫外光は通し難くなります。またシリコンの結晶は可視光は透過しませんが、波長の長い赤外光なら透過します。このように波長を指定しないと結晶が光を透過するかどうかは議論できません。

 結晶光学ではほとんど光を透過する場合(そのような波長の光を使う場合)を対象にします。そのひとつが屈折現象です。光が空気中から結晶中に入射するとき方向が変わるのがこの現象です。これは空気と結晶の屈折率が違うことによると説明されます。では屈折率の値は何によって決まるのでしょうか。これが結晶光学の大きなテーマです。

 もう一つ、光には偏光という現象があります。屈折に比べるとやや取り付きにくいかと思いますが、これこそ結晶光学の重要なテーマです。屈折は水など、結晶でなくても、固体でなくても起こる現象ですが、偏光は結晶と関係の深い現象で、結晶光学の中心的な課題です。

 これらの現象は一言で言えば、光と結晶が互いに影響を及ぼし合うこと(相互作用といいます)によって起こると言えます。光は電磁波です。結晶は原子が規則正しく並んだもので、その原子は正電荷をもった原子核と負電荷をもった電子で形作られているので、この相互作用は電磁波と電荷の電気的相互作用ということになります。この電気的相互作用を説明するには電磁気学が必要です。

 以下の各項では電磁気学を使って説明することが多くなります。このため数式の多用は避けられませんが、電磁気学を知っていることは前提にせず、必要に応じて電磁気学の基礎に戻って説明をすることにしたいと思います。