電子デバイス/半導体メモリ

9.EPROM

 繰り返しになりますが、メモリは1個の素子だけでは1か0かの1ビットの情報しか保存できませんから、何の役にも立ちません。多数の素子を並べてはじめて多くの情報を保存できます。これは前に説明したDRAMやSRAMだけでなく、情報を読み出せるだけで後から書き込むことができないROMでも同じです。

 ROMはたくさん並べたメモリ素子(メモリセルとも言います)に情報を決まった順序で書き込んでおき、同じ順序で読み出せば同じ情報を何度も取り出せるという装置です。情報の書き込みは製造工場などで行われ、使う人が後から書き換えることはできません。できあがったプログラムなどで改変する必要がないものを保存するのに使われます。

 さて、浮遊ゲートを使った素子はまずROMとして使われました。EPROMのEPはElectrically Programmableの略で、電気信号でプログラムできるという意味です。ここで「プログラムできる」は情報を決まった順序で書き込めるという意味ですが、それができるのは製造工場などで一般の使用者ではありません。

 また「電気信号で」とわざわざ断っているのは、電気信号でプログラムできないROMもあるからです。例えば工場で必要な情報に合わせて回路を作り込んでしまうようなROMもあります。具体的な例で言うと、10個の出力端子のある回路を作り、電源を入れると1番目から10番目までの端子がいつも1001011011などと決められた状態になるようにすることはできます。ここで「1」は高い電圧、「0」は低い電圧を意味します。

 しかしこれはあまり便利のよいものではありません。決められた状態が違えば違う回路にしなければならないですし、出力端子の数が多くなると回路も大きく複雑になってしまいます。やはりチップとしては同じものを作り、情報は後から電気信号で書き込める方が便利です。

 このような要求から生まれたのがEPROMです。前項で説明したように情報の書き込みには電子なだれ破壊を使うので、通常の情報読み出しの場合よりも高い電圧を必要とします。また書き換えが必要な場合は、紫外線を当てて記憶情報を消去します。これらは一般のPC等に組み込まれた状態ではできません。必要な設備を持った工場などで行われます。ですからEPROMといっても使用者にとってはただのROMで「プログラムできる」ものではありません。

 このEPROMはどんな回路で作られているか、インテル社の特許(1)を参照しながら説明します。図9-1はEPROMの回路を示しています。図では4つのメモリセル(11、12、21、22)しか描かれていませんが、実際には多数(最初の頃でも数万個)のセルを並べてあります。

 1個のセル(例えば11)は1個の普通のIGFET、T11とこれに接続された1個の浮遊ゲート素子F11からなっています。IGFET、T11のゲートはW1というワード線に接続され、ソースはB1というビット線に繋がれています。またT11のドレインと浮遊ゲート素子、F11のソースが繋がれ、F11のドレインは接地されています。もちろん1,2・・・とa,b・・・という多数のワード線とデータ線が碁盤の目のようにあり、その各交点にメモリーセルが配置されます。この回路をみると以前に説明したDRAM(図3-1参照)とそっくりなことがわかります。

 動作もDRAMに似たものになりますが、説明しておきます。まず情報の書き込みの場合ですが、これは浮遊ゲートに電子を送り込む操作のことです。まずワード線W1にマイナス電圧をかけるとpチャンネルIGFET、T11がオンになります。このときビット線B1にもマイナスにやや大きい電圧をかけるとT11のソース-ドレイン間は導通状態ですから浮遊ゲート素子、F11に電圧がかかり、電子なだれ破壊が起きれば、浮遊ゲートに電子が入ります。このためには35Vほどの電圧が必要と書かれています。

 書き込まれた情報が1か0かを読み出すには次のようにします。なお、この場合、浮遊ゲートに電子が蓄積されている場合が「0」で、電子がいない状態が「1」に相当します。同じようにワード線W1をマイナスにしてT11をオンにします。このときF11の浮遊ゲートに電子がいれば、これはゲートにマイナス電圧をかけたのと同じですから、F11のソース-ドレイン間も導通状態となり、ビット線B1に電圧がかけられるとT11とF11のソース、ドレインを通じて電流が流れます。もしF11の浮遊ゲートに電子が入っていないと、F11はオフ状態で、ビット線B1に電圧をかけても電流は流れません。

 DRAMでは記憶をするのがコンデンサでしたから、このように直流電流が流れるかどうか情報を読み出すことはできません。回路は似ていますがメモリセルの動作はDRAMとは少し違っていることがわかります。

 図では浮遊ゲート素子のドレインは接地されていますが、実際にはここに電流が流れるか流れないかを検出する回路を繋ぎます。各メモリセルごとに回路を付けるのは大変なので、一般にはデータ線に沿って並ぶ浮遊ゲート素子のドレインを共通に接続して電流を検出する方法が採られています。

(1)米国特許US3744036号