電子デバイス/半導体メモリ

8.電子なだれ破壊

 浮遊ゲートを使った不揮発性半導体メモリを最初に実用化したのはこれもインテル社で1970年代前半のことです(1)。前項で説明したように不揮発性半導体メモリーの浮遊ゲートに電子を出し入れする手段としてはトンネル効果が提案されていました。しかしトンネル効果を起こさせるには非常に薄い絶縁膜が必要です。現在はそれほどでもなくなったかもしれませんが、1970年代頃はまだそのように薄い膜を実用的なデバイスに使うのは難しかったようです。

 そこでインテル社は薄い絶縁膜を使わない方式を提案しています。図8-1はその半導体メモリ素子の断面図を示しています。Kahngのデバイスと違うのはゲートが絶縁膜の間に埋め込まれた浮遊ゲートだけで、外部に接続される通常のゲート電極がないことです。あとは通常のIGFETと同じでn型基板の表面にソースとドレインになるp領域が作られ、それぞれ金属(アルミニウム)電極が着けられています。

 なお、浮遊ゲートはKahng特許では金属でしたが、ここでは多結晶シリコンが使われています。これはDRAMの電極で用いられていたのと同じです(4項参照)。シリコン基板上の絶縁膜は熱酸化して作ったSiO膜で厚さは100nmです。薄膜としては作りやすい厚さですが、トンネル効果で電子を透過させるには厚すぎます。

 それでは電子を浮遊ゲートに入れるにはどうするか、つぎのような手段が提案されています。前項で説明しましたが、トンネル効果以外で電子を絶縁膜を通過させるには、電子に高いエネルギーを持たせなければなりません。光や熱でなく、電気で行うには高い電圧で電子を加速する手段があります。アバランシェ(Avalanche)破壊による方法がこれに相当します。アバランシェ破壊は日本語では電子なだれ破壊とも呼ばれます。

 pn接合に逆バイアス、すなわちp側にマイナス、n側にプラスの電圧をかけると、pn接合部分に電子も正孔もいない空乏領域ができ、電流は流れません。しかしどんどん電圧を高くしていった場合、いつまでもこのような状態が続くことはありません。バイポーラトランジスタのところでも取り上げているように、pn接合部分にかかる電界がある限界を超えると、電子がp側からn側に流れ込みます。この電子は高い電界で加速されているので、周囲の原子にぶつかり、それによって電子がなだれ状態で増殖し、電流はどんどん大きくなります。

 図8-1をみるとソース電極が接地され、ドレイン電極に電源のマイナス側が繋がれています。これでn型シリコン基板とドレイン側のp型領域の間には逆バイアスがかかります。ドレイン側p型領域の周囲にはピンク色で示された部分がありますが、これが空乏領域を示しています。図8-2(a)はpn接合ダイオードの電流-電圧特性です。逆バイアスでは電流は流れませんが、電圧が大きくなると赤線で示すような電流が突然流れ出すようになります。これが電子なだれ破壊です。

 特許には30Vをかけるとアバランシェ破壊が起きたと書かれています。これによって図8-2(b)に示したように、p型領域側から大量の電子が浮遊ゲートの下の部分のn型領域に流れ込みます。この電子は高いエネルギーをもっていますので、絶縁膜を乗り越えて浮遊ゲートに入ることができます。

 逆バイアスの電圧があまり大きくなければ、pn接合が本当に破壊されてしまうことはなく、電圧を下げると元の状態に復帰しますので、繰り返しこの現象を利用することができます。

 浮遊ゲートに入った電子は125℃という高温で動作させても10年以上、つまり半永久的にもつ計算になると書かれています。それでは一旦、浮遊ゲートに入った電子を抜き取るにはどうしたらよいでしょうか。正孔を加速して浮遊ゲートに入れ、電子と結合させて電荷を打ち消すことが考えられますが、この特許ではX線や紫外線の照射を用いることを意識しているようです。

 インテル社は浮遊ゲートを使ったIGFETをまずは紫外線消去型のROMとして実用化することを考えました。複数のIGFETを使ったROM装置については別の特許がありますので、次項ではそれを見ることにします。

(1)米国特許3660819号