光デバイス/発光ダイオード

 

49.マトリックス駆動

 前項では、発光ダイオードをパルス駆動する場合に使う基本回路を紹介しました。この項と次項ではこのパルス駆動の応用例を紹介します。この項は発光ダイオードを用いたディスプレイの基本について説明します。

 一言でディスプレイといってもいろいろありますが、ここではテレビやPCの画面などのイメージ、つまり平面ディスプレイに注目します。平面ディスプレイといえば、現在のところ液晶ディスプレイが主流ですが、発光ダイオードでフルカラーを出せるようになったため、発光ダイオードを使った平面ディスプレイも実用的に使えるようになってきました。

 発光ダイオードを使った平面ディスプレイの構造と原理はつぎのようなものです。フルカラーの場合は、赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、青色発光ダイオードの少なくとも3種類の発光ダイオードを近づけて配置し、これを画素にします。1つの画素の色はこれら3種類の発光色を混色して発生させます。単色の表示でよい場合は1画素に1個の発光ダイオードを配置すればよいことになります。

 この画素を2次元のマトリックス状に多数並べます。並べる個数は画面の大きさと必要とされる精細度によって決まります。画像の表示はその画像を表す画像信号によって各画素の発光ダイオードを点滅させることによって行います。具体的な回路を図49-1に示します(1)。

 縦横に交差する導線が多数平行に設けられています。縦横の線の交差するところは絶縁され縦横間の導通はありません。この横の線Y1、Y2、・・・Ynと縦の線X1、X2、・・・Xnの各交差位置に発光ダイオードのアノードとカソードが接続されています(図ではX1とX2、Y1~Y3のみ示しています)。発光ダイオードはフルカラー表示を想定してのRGB3色例を示していますが、単色でも同じですし、その他の色を組み合わせることもできます。  図では破線の楕円で囲った3つの発光ダイオードが1画素を構成します。回路図では各発光ダイオードは均等に配置されていますが、実際には1画素を構成する3つの発光ダイオードは他の画素に属する発光ダイオードより近い位置に配置し、3色が混色されるようにします。

 縦の線、横の線の端にはトランジスタと抵抗が接続されています。このトランジスタは前項で説明したスイッチング用で、ベースに駆動パルスを入力することにより、コレクタ電流が流れ、発光ダイオードが発光します。

 まず横方向の線(Y1、Y2、・・・)につながるトランジスタのベースに上から順に時間をずらして信号を加えます。普通のテレビ画面では1画面を1/30秒で構成しています。この間にY1からYnまで駆動パルスが入力される必要がありますから、1本あたり1/30n秒という時間になります。横方向の線は上から順に信号を入力して走査されることから走査線と呼ばれます。

 例えば横の線Y2のトランジスタに信号が加わっているタイミングを考えます。このとき例えば縦方向の線X2のトランジスタのベースに信号を加えると、Y2とX2につながる発光ダイオードが発光します。他の縦方向の線にも同時に信号を加えることができますから、Y2上の何点かを画像情報にしたがって点灯させることができます。縦方向の線のことを信号線といいます。

 1/30秒という時間は人間の視覚は追従できません。しかしこのような短い光パルスでも感じないわけではなく、実際よりもゆっくりした変化に感じます。つまり見えるのは残像です。この時間内に走査線上の何点かを次々に発光させると人間の眼にはそれらが同時に光っているように見え、1枚の画像が表示されているように感じます。

 ところで図49-1の回路にはつぎのような難点があります。1個のトランジスタは1本の走査線上の多数の発光ダイオードを受け持っています。このため、1本の走査線上の全画素が点灯するような場合、大きなコレクタ電流が流れます。大電流用トランジスタはスイッチング速度が遅く大型になります。スイッチング速度が遅いと走査速度に追いつけず画像のちらつきの原因になります。また素子が大きいとディスプレイ画面以外に大きなスペースをとられてしまい、装置が大型になってしまいます。

 このような難点を改善した回路を図49-2に示します。ここでも楕円で囲まれた3個の発光ダイオードが1画素を構成しています。図49-1と異なるのは各発光ダイオードにそれぞれスイッチング用のトランジスタと抵抗が設けられている点です。

 走査線Y1、Y2、・・・には各トランジスタのベース電極が接続されています。ベースに流れる電流は小さいため、左端に書かれているようにパルス信号を時間をずらせて印加するのに大電流は必要ありません。

 信号線X1R、X1G、・・・にはトランジスタのエミッタ電極が接続され、ベースに信号が加わった画素にだけトランジスタがオンになり電流が流れて、発光ダイオードを発光させます。1個のトランジスタは1個の発光ダイオードを駆動するだけですから、大きなコレクタ電流を流す必要がありません。

 この方式ではもちろんトランジスタの数は増加しますが、トランジスタは集積化することができますから、あまり大きな問題にはなりません。液晶ディスプレイと同様に各画素のトランジスタには薄膜トランジスタ(TFT)がよく使われます。このTFTは通常バイポーラトランジスタではなく電界効果型のトランジスタですが、原理的にはバイポーラトランジスタと置き換えて同様に使用できます。

 なぜディスプレイでは以上のような一見面倒なやり方をするのでしょうか。これはひとえに配線の問題と言えます。発光ダイオードは各画素に1個(RGBなら3個)配置しなければならず、表示する画素数だけ必要です。1000×1000画素でも100万個から300万個の発光ダイオードが必要です。旧来のCRTを除き、近年の画像を画素に分解して表示する原理のディスプレイ装置ではこれは仕方がありません。

 表示したい画像に対して、各画素の発光ダイオードをどのように光らせればよいかは決まりますので、あとはそれを信号として各発光ダイオードに同時に送ればよいわけです。ただこのためには各発光ダイオードの2つの端子にリード線をつながなければなりません。100万個なら200万本のリード線を引き出し、別々の信号を送れるように接続する必要があります。これは大変なことです。

 そこで考えられたのが、上に説明したような「走査」という方法です。この方法であれば1000×1000画素の場合2×1000本の配線になりますから全部からリード線を引き出すのに比べると配線の数は1/1000に減ります。そのためここで紹介しているような回路を使い、かつ人間の眼の残像を利用して画像の表示を行っているわけです。これは液晶ディスプレイをはじめとして近年のほとんどのディスプレイに使われています。

 図49-2の回路は液晶ディスプレイのアクティブマトリックス方式と基本的に同じです。液晶ディスプレイでは駆動トランジスタで液晶シャッタの開閉を行いますが、液晶自身は発光しないので、このほかにバックライト用光源(これにも発光ダイオードが使われています)とフルカラーの場合はカラーフィルタが必要になります。

 発光ダイオード方式の場合は駆動トランジスタのほかには発光ダイオードと抵抗しか必要でないので、集積化に向いており、少ない部品で構成でき薄型化がしやすい利点があります。

(1)特開平10-055155号