光デバイス/発光ダイオード

30.ダークライン欠陥

 半導体層そのものの劣化が発光ダイオードの信頼性を損ねる原因となる例をもうひとつだけあげておきます。それは結晶欠陥による発光素子の劣化です。

 まずどのような劣化現象が起きるかというと、発光素子に電流を流して使用していると使用し始めてから比較的短い時間で発光強度が低下してしまうことがあります。発光強度が低下する原因を調べると、発光領域内に黒い線のようなものが現れ、発光を阻害していることがあります。これを暗線(ダークライン)欠陥と呼びます。

 この劣化現象は半導体レーザの劣化現象として対策が検討されることが多いですが、発光ダイオードでも起こることが知られています。重要な特徴は電流を流した状態である時間が経過すると起こるということです。この欠陥の発生機構はつぎのように考えられています。

 基板上にエピタキシャル成長させた半導体結晶層は微視的にみると多かれ少なかれ欠陥を含んでいます。ここで問題にするのは主として積層欠陥や転位と呼ばれるもので、ある結晶面をみたとき、図30-1のように本来規則正しく並んでいるはずの原子が途中でずれてしまっているような欠陥です。図では赤色で示した原子が一つの面上に並んでいますが、途中で途切れ、両隣にある原子の配列面が歪んでいます、このような原子の並びのずれは結晶の奥へ続いていて結晶層を貫通してしまうことがあります。これを貫通転位といいます。

 このような欠陥が含まれている結晶層でも、電流を流すと欠陥のない部分では正常な発光が得られます。しかし欠陥の

あるところでは電子と正孔は発光しないで再結合(非発光再結合)しやすい状態となります。本来ならば、光として放出されるエネルギーは結晶内に主として熱のかたちで放出されます。このエネルギーによって欠陥から新たに転位が発生して発光層内に進展します。これが電流を流すと欠陥が成長する機構と考えられています。

 このとき原子がどのような動きをして転位が進展するのかは、いくつか説があって断定することができませんが、結晶層の表面が(100)面のとき、転位は<110>方向((110)面に垂直な方向)に沿って発光層内に伸びるのが観測されています。この様子をイメージで示したのが、図30-2です。半導体レーザに関して特開平08-064901などにこのような現象が示されています。この転位付近では発光が起こらないので、このような線状の欠陥をダークライン(暗線)欠陥と呼んでいます。

 この欠陥が成長するにしたがって発光が弱まってしまうため、重大な劣化要因となるので、これを防ぐ手段も種々検討されています。最初の貫通転位が発生する原因はエピタキシャル成長させる基板に存在する欠陥がエピタキシャル層に伝搬したり、基板とエピタキシャル層の間に格子不整合があり、それを原因としてエピタキシャル層中に欠陥が発生したりすることにあります。また結晶に応力が加わると転位が発生する場合もあります。したがってこのような欠陥発生の原因を減らすことが必要です。上に挙げた特開平08-064901では基板の面方位を(100)面から少し傾けることにより、転位を減らす手法をとっています。

 また転位が発光層内に伸びないようにするという考え方もあります。発光層がAlGaInPの可視光発光ダイオードについてその対策が述べた例があります(1)。その素子の構造を図30-3に示します。

 発光層はGaAs基板に格子整合したAlGaInP層です。上部にAlGaAs電流拡散層が形成されていますが、ここに発生した転位が右側の図のように発光層を貫通してしまうと、ダークライン欠陥を発生させる恐れがあります。これは素子上部の転位ですから、これは結晶成長ではなく、ワイヤボンディングの衝撃などの応力により発生する欠陥と考えられます。

 対策としてはこの電流拡散層の下に高濃度に転位を含む層を挿入しています。ここではGaAsとは格子定数の異なるInP層を挿入しています。左側の図のように上層に発生した転位はこの層によって進展が妨げられ、発光層へ進展するのを防ぐことができるとされています。

 ここまで発光素子そのものに原因する劣化現象を紹介してきました。発光に関係しない半導体素子の劣化現象はこの他にもいろいろありますが、ここでは省略します。

(1)特願平08-181356号