電子デバイス/半導体集積回路

16.まとめ

 現代の情報通信(IT)技術のハードウェア面はIGFET集積回路の微細化に支えられてきたといってよいと思います。20世紀後半以来、この微細化に向けた技術の開発が集中的に行われて来ました。その指針となってきたのがよく知られるムーアの法則です。

 ムーアの法則はインテル社の創業者の一人であるゴードン・ムーア(Gordon Moore)によって1965年に唱えられました(1)。これは1チップ上に集積されるトランジスタの数が 18ヶ月(1年半)で倍増するという経験則です。数年後には18ヶ月より24ヶ月(2年)で倍増の方が実情に合うと修正されています。

 式で書くと、n年後のトランジスタ数の倍増率pは

\[p=2^{n/2}\]

となります。

 実際のマイクロプロセッサにおけるトランジスタ数の推移は何と50年近くもムーアの法則に沿って増大してきました。その変化の概略は図16-1に示す直線で示されます。実際のよく知られたマイクロプロセッサのデータ(2)を2、3抽出してプロットしてみると、この直線上によく乗っていることがわかります(もっと多くのデータをまとめた文献が多数あります)。

 しかし、21世紀に入って、とくに2010年代半ば以降、どうもこれ以上はこの法則が成り立つのは無理ではないかと言われるようになっています。チップ上の最小のパターン寸法が10nmに近づくまでになってきたからです。数nmといえば原子数個分のサイズに相当するわけで、チャンネル長や配線の線幅がこのようなサイズになるとデバイスとしての機能を果たすのは難しくなると思われます。

 こうなってくると、トランジスタの原理から変えていかないと課題は解決できないように思われますが、前項で触れたようにすでにいくつかの新しい構造のFETが発明され、2030年頃までにはこれらが普通に使われるようになるかもしれません。しかしどんなデバイスが次世代、次々世代を切り開くかはまだ見えていません。

(1)G.E.Moore, "Cramming more components onto integrated circuits", Electronics Vol.38, No.8 (1965) (2)https://en.wikipedia.org/wiki/Transistor_count