電子デバイス/半導体集積回路

12.アナログ集積回路

 トランジスタを用いた集積回路はデジタル論理回路だけでなく、あらゆる回路に用いられます。ある程度汎用性があるか、またはかなり多数使われる見込みがあれば、集積回路化すると有利です。とくにデジタル信号でなく連続的に変化するアナログ信号を扱うアナログ回路を集積化したものをアナログ集積回路(アナログIC)またはリニア集積回路(リニアIC)と呼んでいます。

 増幅器(アンプ)は広く使われ、汎用性もあり、集積化される可能性が高いアナログ回路です。そのなかで演算増幅器(Operational amplifier、略してオペアンプと呼ぶ場合もあります)という増幅器が集積回路として市販されています。演算増幅器とはどのような増幅器か、以下に説明します。

 図12-1は演算増幅器を用いた増幅回路です。三角形が増幅器(ここでは演算増幅器)を示す記号として使われます。演算増幅器は2つの入力端子と1つの出力端子が設けられた増幅器で、増幅率が非常に大きいことが特徴です。

 図12-1に示されるようように演算増幅器を用いた増幅回路は通常、2つの抵抗器を接続して使います。この場合、この増幅回路の増幅率はこの2つの抵抗の比で決まります。その理由はつぎのように説明されます。増幅器の増幅率が極めて大きく無限大に近いとします。出力電圧は現実的な値(有限な値)であるはずですから、入力端子間の電位差は極めて小さくほとんどゼロであることになります。

 この場合、接地側と反対側の端子の電位もほとんど接地電位にあるとみなせます。ただし2つの入力端子間は短絡しているわけではなく、むしろ高い抵抗値で分離されています。すると入力電圧と出力電圧の比は2つの抵抗で分圧された値になることがわかります。これはこの回路の増幅率は演算増幅器の増幅率には関係なく、2つの外につないだ抵抗器だけによって決まることを意味します。

 言い換えれば、演算増幅器が集積回路として提供されれば、外部に2つの抵抗器をつないで必要な増幅率をもつ増幅回路を得ることができることになります。使用者が必要な増幅率は使用者が外付けの抵抗器で決めればよく、集積回路は増幅率の違う他品種を用意する必要がなくなり、汎用化が可能になるわけです。

 さらに外部に接続する抵抗器のいずれかをコンデンサに置き換えると、回路は積分回路や微分回路になります。これは入力信号の変化に対して積分関数や微分関数に相当する変化が出力される回路です。実はこのような回路を実現できることが演算増幅器の名前の由来です。現在はほとんど耳にしなくなりましたが、デジタル計算機が現れるより前にアナログ計算機というものがありました。これは上記のような回路を組み合わせて入力の四則演算のほか、微分や積分を得ることができることを利用し,微分方程式の解を求めるなどの目的に使われました。一種の関数発生器のようなものです。これに使われたことが演算増幅器の名前の由来です。

 2入力の増幅器の回路はバイポーラトランジスタの場合、図12-2のようなものになります。これは差動増幅器と呼ばれ、真空管時代から知られている増幅器の回路です。二組のエミッタ接地増幅器が組み合わされていますが、2つの出力端子間には2つの入力信号の差に比例した電圧が生じることからこの名前が付けられています。演算増幅器の出力端子は1つですが、この出力端子には図の2つの出力端子間の電圧に相当する電圧が生じると考えて下さい。

 図12-2は基本回路を示したもので、実際の演算増幅器には増幅率を安定に向上させるため、もう少し複雑な回路が使われているはずですが、ここでは立ち入りません。この演算増幅器はIGFETで形成することも可能で、そのような製品もあります。

 この他、一般のオーディオ用のアンプも集積化された製品があります。オーディオ機器も小型なものも多くなり、部品点数が少なく小型化できる集積回路が便利に使用されています。

 さらにこの増幅器に周辺回路を加えて集積化する場合もあります。その例が電源回路のレギュレータです。すべての半導体回路には直流電源が必要ですが、回路が動作するには設計された電源電圧から大きく異なることは許されません。商用の交流電源を使う場合も、電池を使う場合も定電圧回路を備えて電源電圧の変動に備えた方が回路を安定に動作させるためによいのです。

 この電圧を安定に保つ回路をレギュレータといい、これが集積化されて提供されています。基本的な回路は図12-3のようなもので、比較増幅回路と書かれている回路は基本的には演算増幅器と同様の差動増幅器です。差動増幅器の一方の入力に定電圧素子であるツェナーダイオードなどを接続し、電源電圧をこれと比較し、変動が認められれば、バイポーラトランジスタのベース電圧を変えて変動を抑えます。このICを1個電源に入れておけば電源電圧が安定にできるので、これはどのような装置にも必要とされる部品となります。大きな出力電流を流せる必要があるため、出力トランジスタはバイポーラ型が適しています。

 上記の回路はリニアレギュレータとも呼ばれますが、これに対してスイッチングレギュレータという回路もあります。これは発光ダイオードの駆動回路のところで示したようなDC-DCコンバータのことで、直流電圧の昇圧や降圧の機能があります。これも集積化された製品があります。

 以上がアナログ集積回路の典型例です。