科学・基礎/半導体デバイス物理

3.pn接合の電位分布

 「半導体物理学」のセクションの最後のいくつかの項で単独の半導体におけるキャリア(電子と正孔)のエネルギー分布を表す理論式を示しました。

 つぎのステップとしては2種類以上の半導体が接合した場合を表現する理論式を導くことが必要になります。それによって接合を利用した半導体デバイス中のキャリアの動きが理解でき、デバイスの設計が行えるようになります。

 接合のうち、もっとも重要なのはpn接合です。その基礎となるのが、同一半導体の接合、すなわちホモ接合です。そこでまずはホモpn接合の整流特性についての表式を紹介します。この項ではまずpn接合の電位分布を表す式を導きます。

 p形半導体とn形半導体を接合すると、どういうことが起こるかについては各デバイスの動作を説明する際にも説明していますが、基本的なことを改めて説明しておきます。n型半導体とp型半導体を接近させ、接合する場合を考えます。これはあくまで思考上のことで、実際のpn接合は例えばn型不純物を含んだn型半導体をまず成長し、その表面にp型不純物を何らかの方法で導入するか、または成長したn型半導体の表面にさらにp型不純物を含んだ半導体を成長することによって作りますから、できあがったn型半導体とp型半導体をくっつけるような方法は採りません。

 ともかくn型半導体とp型半導体が接触したとすると、n型半導体には動ける電子がたくさんいますが、p型半導体にはほとんどいないので、電子はp型半導体側に移動しようとします。同様に正孔はp型半導体からn型半導体側に移動しようとします。しかしこの移動はいつまでも続くことはなく、やがて止まります。

 どういう状態で止まるかというと、つぎのように考えられます。接合した界面付近ではn形半導体中の伝導電子とp形半導体中の正孔が互いに反対の半導体中に移動するため、電子、正孔がいない状態になります。これを空乏状態と言います。n型半導体の表面付近から電子を抜くとそこには正に帯電したドナー不純物が残ります。p型側は負に帯電したアクセプタ不純物が残ります。全体として電荷はつりあっていなければならないので、ドナー不純物の正電荷とアクセプタ不純物の負電荷がバランスした状態になります。

 接合付近には正負の電荷が分離していることになりますから、そこには電位差が生じ、電界が発生します。これがpn接合の内蔵電界です。この内蔵電界あるいは電位分布をまずは計算します。

 この問題は、空間に電荷がある形に分布しているとき、それが作る電位はどのような分布になるかという電磁気学の問題に帰せられます。電磁気学でこの問題を解くために使われる公式はポアソンの方程式と呼ばれるものです。

 電荷分布 \(\rho \left ( x \right )\) がその周囲にどのような電界 \(E \left ( x \right )\) を作るかはガウスの法則によって示されます。次式は微分形式で表した1次元のガウスの法則です。\( \varepsilon\) は周囲の誘電率です。これは電磁気学の基本方程式であるマクスウェルの方程式の一つでもあります。 \[\frac{\mathrm{d} E}{\mathrm{d} x}= \frac{\rho \left ( x \right )}{\varepsilon }\]  この法則は電荷の間にはたらく力を表すクーロンの法則から導かれますが、その導出は数学的な準備で脇道が長くなりますので、ここでは省略します。一方、電界 \(E\) は電位 \(\phi\) の傾斜ですから、 \[E= -\frac{\mathrm{d} \phi }{\mathrm{d} x}\] です。これを上式に入れると \[\frac{\mathrm{d^{2}}\phi }{\mathrm{d} x^{2}}= -\frac{\rho \left ( x \right )}{\varepsilon }\tag{1}\] が得られます。これがポアソンの方程式です。電荷分布 \(\rho \left (x\right)\) が与えられたとき、この微分方程式を解くことにより、電位分布 \(\phi \left(x\right)\) が求められます。

 さて、pn接合の電位分布を求めるため、もっとも簡単にアクセプタ、ドナーの密度がそれぞれ各半導体中で一定である場合を考えます。簡単ではありますが、実際の接合に十分使えます。

 計算を行うため、図3-1に示すような1次元の電荷分布を仮定します。p形半導体側(\(x \lt 0\))では接合面(\(x=0\))から幅 \(d_{A} \) の間が密度 \(N_{A} \) のアクセプタが帯電しているとします。n形半導体側(\(x \gt 0\))では接合面から幅 \(d_{D}\) の間が密度 \(N_{D}\) のアクセプタが帯電しているとします。この外側、つまり \(x \lt d_{A}\) と \(x \gt d_{D}\) の領域では電荷が 0、すなわち \[\rho \left ( x \right )= 0\] となります。ここで誤解しないでいただきたいのは、ドナーが \(x=0\) から\(x=d_{D}\) までの間にしか存在しないわけではないことです。ドナーは \(x \gt 0\) の範囲に一様に存在しているのですが、\(0 \lt x \le d_{D}\)の区間だけ電子を離して正に帯電していますが、\(x \gt d_{D}\)の範囲では電子が存在するので電気的に中性になっているということです。アクセプタの場合も同じです。

 さて\(-d_{A} \le x \lt 0\) の範囲では \[\rho \left ( x \right )= -eN_{A}\] \(0 \lt x \le d_{D}\) の範囲では \[\rho \left ( x \right )= eN_{D}\] です。また、\(-d_{A} \le x \lt 0\) と \(0 \lt x \le d_{D}\) の範囲での電位をそれぞれ\(\phi_{1}\)、\(\phi_{2}\) として、ポアソン方程式を解きましょう。境界条件は \[\phi _{1}\left ( -d_{A} \right )= 0,~~~~~~\left ( \frac{\mathrm{d} \phi _{1}}{\mathrm{d} x} \right )_{x= -d_{A}}= 0\] \[\phi _{2}\left ( d_{D} \right )= V_{D},~~~~~~ \left ( \frac{\mathrm{d} \phi _{2}}{\mathrm{d} x} \right )_{x= d_{D}}= 0\] とします。\( \mathrm{d} \phi/\mathrm{d}x =0\) の境界条件は電荷がない領域で電界すなわち電位の傾きが 0 であるという条件です。\(V_{D}\) はpn接合の内蔵電位です。

 ポアソン方程式((1)式)は電位の2次微分が定数という式ですから、電位を \(x\) の2次関数とし、境界条件から係数を決めます。結果は \[\phi_{1} \left ( x \right )= \frac{eN_{A}\left ( x+d_{A} \right )^{2}}{2\varepsilon }\tag{2}\] \[\phi_{2} \left ( x \right )= V_{D}-\frac{eN_{D}\left ( d_{D}-x \right )^{2}}{2\varepsilon }\tag{3}\] となります。この電位分布の概形を図3-2に示します。

 さらに \(x=0\) で電位と電界は連続でなければならないので、 \[\phi _{1}\left ( 0 \right )= \phi _{2}\left ( 0 \right )\] \[\left ( \frac{\mathrm{d} \phi _{1}}{\mathrm{d} x} \right )_{x= 0}= \left ( \frac{\mathrm{d} \phi _{2}}{\mathrm{d} x} \right )_{x= 0}\] の条件が成り立つ必要があります。これを書き直すと \[\frac{eN_{A}d{_{A}}^{2}}{2\varepsilon }= V_{D}-\frac{eN_{D}d{_{D}}^{2}}{2\varepsilon }\] \[N_{A}d_{A}= N_{D}d_{D}\] が得られます。

 これを(2)、(3)式に代入すると \(d_{A}\) と \(d_{D}\) は \[d_{A}= \left ( \frac{2\varepsilon V_{D}}{eN_{A}}\cdot \frac{1}{1+N_{A}/N_{D}} \right )^{1/2}\tag{4}\] \[d_{D}= \left ( \frac{2\varepsilon V_{D}}{eN_{D}}\cdot \frac{1}{1+N_{D}/N_{A}} \right )^{1/2}\tag{5}\] となります。したがって空乏層全体の幅 \(d\) は \[\begin{align} d &= d_{A}+d_{D} \\ &= \left ( \frac{2\varepsilon V_{D}}{e}\cdot \frac{N_{A}+N_{D}}{N_{A}N_{D}} \right )^{1/2}\end{align}\] となります。

 一方の不純物濃度が非常に高い、例えば \[N_{A} \gg N_{D}\] のような場合は \[d= \left ( \frac{2\varepsilon V_{D}}{eN_{D}} \right )^{1/2}\] となり、空乏層は不純物濃度の少ない側に伸びるという性質があります。このときの単位面積当たりの空乏層の静電容量 \(C\) はつぎのように表されます。 \[C= \frac{\varepsilon }{d}= \left ( \frac{e\varepsilon N_{D}}{2} \right )^{1/2}{V_{D}}^{-1/2}\] この静電容量の特徴は印加する電圧によって変化することで、容量-電圧特性を測定することにより、接合の状態を調べることができます。