科学・基礎/半導体デバイス物理
2.整流現象の発見

 整流現象は2つの半導体同士を接合した場合、または金属と半導体を接触させた場合に、流す電流の方向によって電流値に大きな違いが観測される現象です。

 整流現象が最初に発見されたのは19世紀のことですが、当時はまだpn接合はない時代ですから、金属と半導体が接触した系での発見です。

 1874年にイギリスのシュスター(A. Schuster)という人が錆びた銅と錆びない銅との接触面で整流作用を発見したのが最初のようです。錆びた銅は恐らく亜酸化銅(Cu2O)になっていて、これが半導体としてはたらいたと推測されます。

 また同じ年にドイツのブラウン(F. Braun)がPbS(鉱物名としてガラナと呼ばれている)に図2-1のように銅や鉄などの金属針を立て、電源をつないで電流を流したときに図2-2のような特性があることを発見しています。電圧の極性によって流れる電流の大きさが非対称になっています。これがいわゆる点接触型整流器の始まりです。

 これから70年以上後にバーディーンとブラッテンが最初に作ったトランジスタも点接触を使いました。ある一定の面積の半導体と金属の均一な接触を作るには一定の技術がないと難しいのですが、点接触の場合はうまくいく点を探せばよいので楽に望みの特性を得やすいと言えます。ただし長期にわたって安定な特性を望むことは無理です。このような手段は19世紀からすでに知られていたということになります。

 半導体整流器は1920年代には実用化されていたようですが、なぜ整流という作用が生じるのかはこの時点になっても諸説があってはっきりしていなかったとされています。なぜそうなるのかはわからなくてもデバイスとして応用はできてしまうという一つの例です。光伝導を利用したスイッチなども同じような例です。

 整流現象の理論的説明は1930年代以降にできあがったものです。電子に対する障壁というモデルを考え整流現象が説明できることは現代ではよく知られています。

 しかし図2-2に示すように極性が違うVという電圧をダイオードにかけたとき、流れる電流I+とI-の比が100:1なのか、10:1なのかは理論の助けを借りないとわかりません。逆に言えば、理論が正しいかどうかは実際に起こる整流の電流比が説明できるかにかかっています。また応用上は整流器として電流比が100:1なら使えるのか、10:1でもよいのかなど、数値的な判断が必要です。こういう目的のためには理論を使った計算によって数値を出すことがどうしても必要になります。

 理論については後に立ち入ることにして、技術の発展の歴史上、興味あることに触れておきます。

 点接触型のダイオードは20世紀はじめ頃には無線通信の受信機に使う検波器として実用化されつつありました。鉱石検波器とも呼ばれるものです。

 ところがこの頃から急速な発達をとげた真空管がその役割を奪ってしまうということが起こりました。これは2極真空管の話ですが、トランジスタの発明までにはさらに半世紀近く待たなければならなかったので、この間、3極あるいは5極真空管を使った増幅器は変わる物がない状態でした。

 しかし戦時に必要とされたレーダには極超短波を使うため、真空管による検波では無理ということになり、半導体の点接触型整流器が再登場することになりました。これがその後のトランジスタの発明などの呼び水になったそうです。

 真空管からトランジスタへというのが、電子工学における技術の発展について説明するときの常識になっていますが、ダイオードについては真空管の前に半導体式があったのです。これは面白い発見でした。

 

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