電子デバイス/バイポーラトランジスタ

4.バイポーラトランジスタの増幅作用

 pn接合を2つ重ねたnpn接合を電子がどのように流れるかを前項3で説明しましたがこれだけでは増幅作用がなぜ起こるのかまだ分かりません。そこでnpn接合を2項で説明したブラックボックスに当てはめて考えてみます。

 そうすると図4-1のようになります。ブラックボックスの外は入力する信号と出力信号を取り出す負荷抵抗だけを繋げますから、ブラックボックスの中はトランジスタと電源が入っていることになります。

 トランジスタの一方のn型層に入力信号を入れますが、この電極をエミッタといいます。英語のemitは放つ、放出するという意味で、電子がこの電極から放出されるので、この名前が付けられています。もう一方のn型層から出力信号を取り出しますが、この電極をコレクタといいます。英語のcollectは集めるという意味で、流れてきた電子をここで集めるという意味でこの名前が付けられています。真ん中のp型層はベースといいます。baseは基礎という意味ですから、ここが基準の電極ということになります。

 図4-2は前項の図と同じエネルギーバンド図です。図4-1と見比べながら電子の流れをみると、n型のエミッタにマイナス、p型のベースにプラスの方向にVという電圧をかけていますので、エミッタ-ベースのnp接合には順方向に電圧がかかっていることになり、エミッタには電子が流れ込んできます。そしてこの電子はベース層内に溢れて流れ込みます。

 一方、コレクタ側をみると、p型のベースにはマイナス、n型のコレクタにはプラスのVという電圧がかかっていますから、ベース-コレクタのpn接合には逆方向の電圧がかかっています。pn接合に逆バイアスをかけると電流は流れないというのが常識ですが、これは電子がn型層の側にしかいないからです。ところがこの場合は、p型層のベースに電子がたくさん入り込んでいるという特別な状態になっているので、その電子はプラス電位に引かれてどんどんコレクタに流れ込むことになります。これがバイポーラトランジスタの動作では重要な点です。

 バイポーラトランジスタでは普通、図4-1のようにベース層は薄く作られています。このため、エミッタからベースに入った電子はコレクタ側に流れ込みやすく、ブラックボックスにエミッタ側から入る電流iとコレクタ側から出てくる電流iは大体等しくなります。言い換えるとベース電極から流れ出す電流はほとんどないようにします。

 iとiが大体同じなら、2で説明したように、入口側の電圧vより出口側の電圧vが大きければ、電力としては増幅されることになります。出口側の電圧vを大きくするためには、負荷抵抗Rを大きな抵抗値にすることと、ベース-コレクタ間の逆バイアス電圧Vを高くすることが必要です。

 Vを大きくし過ぎるとpn接合が壊れてしまいますので、限度はありますが、このような使い方で電力の増幅ができることがわかります。

 なお、前項からpn接合内を流れる電子だけに注目し、図にも電子しか描いていませんが、実は正孔もあります。ただnpn型のトランジスタでの主役は電子で、正孔による電流は小さく無視して考えてもそれほど問題はありません。ただしpnp型の場合には逆に正孔による電流が主役になります。電圧をかける方向も逆になりますので、注意が必要です。

 バイポーラトランジスタによる増幅の理論的説明は「半導体デバイスの物理」の9項などを参照してください。