光デバイス/太陽電池

13.太陽電池の効率を低下させる原因(その2)

 前項では、入ってきた太陽光エネルギーが失われ、電気エネルギーになってくれない原因の1つとして、太陽光が太陽電池の中にうまく入ってくれないことを取り上げました。そして具体的には表面での反射について調べました。

 太陽光が太陽電池の中にうまく入ってくれない原因が他にもあります。太陽電池は電力を取り出すのが目的ですから、どうしても電極が必要です。しかし電気をよく通す金属は普通、光を遮ってしまうので、11項でも触れたように、これが太陽電池の表面にあると、当たり前ですが太陽光が太陽電池のなかに入らない原因になってしまいます。

 これを解決する手段は2つあります。1つは光を遮る電極を小さくすることです。もう1つは電極を透明にすることです。しかし両方にそれぞれ問題点があります。それを少し調べてみましょう。

 電極を小さくするためによく使われるのがフィンガー電極と言われる細い電極です。フィンガーとは指のことですから、5本の指を広げたときのように間に隙間があるというイメージです。「11.セルの構造」の図11-1でも概略は示していますが、もう少し実際によく使われている例を示しておきます(1)

 図13-1は太陽電池の光入射面を示したものです。半導体の表面に細い複数の電極が間隔を開けて多数平行に設けられています。これを通常、フィンガー(finger)電極と呼んでいます。これと直交するように少し太い電極が2本設けられ、その端に外部と接続する配線用の接続パッドが作られています。こちらの電極をバスバー(bus bar)電極と言うこともあります。両電極とも金属製で光を透過することはありません。これらの電極は電極直下ではなく電極から離れた場所で発生したキャリアを集めます。その意味でこれらの電極を総称して「集電極」と呼ぶことがあります。

 このような電極の場合、その形がとても重要です。電極は太いと光を遮るので細い方がいいのですが、細すぎると電気をよく通す金属でも電気抵抗が大きくなってきます。電気抵抗が大きいと取り出せる電力が少なくなってしまうのでよくありません。

 また電極の間隔も重要です。電極の間隔は広い方が光を遮る量が減るのでよいのですが、電極から遠いところで発生した電子と正孔は電極に到達するまでに半導体中を長い距離移動しなければなりません。半導体は普通、金属より抵抗が大きいので、距離が長いとその影響は大きくなります。

 このフィンガー電極は現在、製品の太陽電池でもよく使われていますが、上のような問題にできるだけ折り合いを付けるように設計されます。大体のイメージでは電極の幅(太さ)は0.1mmくらい、電極間の幅は数mmくらいといった感じで、かなり細い電極が使われています。この細い電極の電気抵抗の影響をできるだけ減らすように、少し太いバスバー電極を数本、細い電極をつなぐように入れることもよく行われています。

 細い電極の間の隙間は誘電体膜で埋められていることが多いと思われます。半導体表面を露出させないように保護膜の役割を果たすと同時に、半導体と空気の中間の屈折率をもつ誘電体を挿入することで反射防止膜の役割を果たすことにもなります。

 一方、電極を透明にすれば以上のような問題は解決するように思われます。しかし透明な物質が電気をよく通すというのは本来無理な話なのです。可視光をよく通すということはバンドギャップエネルギーが大きいということで、バンドギャップエネルギーが大きいと自由な電子ができにくいことになりますから、抵抗の低い導体にはなりにくいのです。しかし透明でも抵抗が低い例外的な物質があります。その代表が、酸化スズ(SnO)や酸化インジウムスズ(ITO)です。

 しかしこれらの電気抵抗は低いといっても金属よりはかなり高く、抵抗を下げるために膜を厚くすると光の透過率が下がってしまうという難点があります。また抵抗の低い膜を作るためにはかなり高温で成膜しなければならないという問題もあります。

 このため、単結晶半導体を使った太陽電池には金属のフィンガー電極の方がよく使われるようです。しかし非晶質(アモルファス)の薄膜太陽電池には透明電極も使われています。アモルファスシリコンなどは、半導体自身の抵抗がかなり高く、フィンガー電極の問題点が現れやすいのが1つの理由です。また薄膜太陽電池の場合は、ガラス基板に先に透明導電膜と着けたものを用意し、これに半導体の薄膜をつければいいので、抵抗の低い透明導電膜付き基板を別に作って用意しやすいということもあります。

 このように電極はできるだけ光を遮らないように、しかも抵抗が小さくて電力をよく取り出せるように、という要求を満たすように選びたいのですが、この2つの条件は一方を立てれば、他方が立たずということになりやすいのが難しいところです。

(1)特開昭49-114887号