光デバイス/太陽電池

11.セルの構造

 太陽電池は具体的にどのような構造をもっているのかについて見てみましょう。

 1個の太陽電池の基本的な構造は次のようなものです。基板の上に太陽光を電気に変える太陽電池の心臓部とも言える半導体の接合層があります。この半導体接合層は基本的にはpn接合ですが、より複雑な構造になっている場合もあります。それについては後に触れます。

 図11-1のように半導体接合をエピタキシャル成長で作るような場合には基板を半導体結晶とし、基板自体を接合の片側として使う場合があります。また図11-2のようにpn接合を半導体の薄膜で形成する薄膜太陽電池の場合は、基板はガラスや金属の板として単に薄膜を支える役割だけ、あるいは電極と兼用で使うことになります。

 太陽電池では電極の構造をどうするかが非常に重要です。もちろん電極はpn接合の両側に必要です。そして接合に太陽光を照射しなければならないので電極が太陽光をできるだけ遮らないようにする必要があります。

 まず半導体結晶を基板とする太陽電池では、基板側から光を導入しても吸収されて接合まで届かない恐れがあります。このため太陽光は基板の表面側つまりエピタキシャル成長膜(または拡散層)がある側から導入します。このように基板が光の入射面と反対側にあるセル構造をサブストレート型と言うことがあります。

 この場合、光が入射する側の面の電極は、変換効率を低下させないためにできるだけ光を遮らないようにしなければなりません。透明な電極にする場合もありますが、光を通さない金属電極にする場合、表面電極を全面につけず、図11-1のように部分的に着けます。基板の裏面にはオーミック接触する金属電極を着けます。

 薄膜太陽電池の場合は、基板を金属のような導電体にすれば基板を下側の電極にすることができ、表側を上記と同じように光を通す電極にします(サブストレート型)。

 ガラス基板を使う場合はガラスが絶縁体のため、裏面に電極を設けるわけにいきません。そこで基板と半導体薄膜の間に電極を設けます。ガラスは透明でもあるので、図11-2に示すように基板を通して太陽光を受け入れることもできます。このセル構造をスーパーストレート型と言うことがあります。この場合はガラス基板表面に透明な電極層を作っておき、その上に半導体層を作ります。この場合は基板が結晶ではないので、半導体層はエピタキシャル成長で作ることはできません。半導体層表面側の電極はこの場合、光を通す必要がないので普通に金属のオーミック電極とすればよいことになります。

 その他、光を取り込む側に遮光する金属などがなくても、半導体表面やガラス基板表面で光が反射されてしまうと接合部分に届きませんから、表面での反射を防ぐような手段が講じられることがあります。誘電体膜などの反射防止膜を着ける方法があります。

 反対に光を取り込む側とは反対側の表面は一旦入った光を通り抜けさせず、よく反射するようにした方がよいです。電力に変換されずに接合部分を通り抜けた光をもう一度接合部分に戻すことにより、変換効率の改善が期待できます。可視光に対して反射率の高い金属電極を設ければ、よくその役割を果たしてくれることになります。

 トランジスタやLEDなどの半導体デバイスは単体の場合、1つのチップは1mm角もない大きさですが、太陽電池の場合は太陽光の入射面を広くして発電できる電力を増やす必要があります。ですから1つのセルが数cm径とか数cm角、あるいはそれ以上の大きさにします。このため、基板の材料に安いものを使い、しかも変換効率を高く保つための研究が多く行われてきました。この辺りについては後の項で取り上げていくことにします。

 太陽電池は英語では"solar cell"が一般的ですが、やや学問的な"photovoltaic cell"という言い方もあります。日本語に訳せば光電変換セルということになりますが、略してPVセルと呼ばれることもあります。いずれにしてもセルは電池という意味で使われます。電池にはバッテリー(battery)という語がありますが、solar batteryとはあまり言わないと思います。セルとバッテリーはどう違うのでしょうか。

 あまりはっきりしませんが、どうも電池としての最小単位をセルと言うようです(生物の最小単位の細胞もセルです)。バッテリーはこのセルを複数並べた集合体のことのようです。ですから1個の乾電池はセルと言った方がよく、自動車用の蓄電池は電極を複数並べているのでバッテリーということになると考えればよさそうです。

 太陽電池も複数の素子(セル)を並べて使用しますが、これはバッテリーとは言わず、モジュール(module)と言うのが普通です。言葉にはいろいろな慣習があるので、あまり理屈を言っても仕方がないのかも知れませんが。