光デバイス/受光素子

15.フォトトランジスタ

 前項までの受光素子はすべて2本足のダイオードに光を当てて使うものでしたが、3本足のトランジスタに光を当てて使うフォトトランジスタという受光素子もあります。

 しかし実際には多くのフォトトランジスタは2本足で、ベース電極につながる足は省略されている場合が多いです。これは光を当てて電子-正孔対を発生させ、それを入力とするため、ベースに外部と電気的につなげるための端子がなくてもいいからです。なおベース電極が付いた3本足のフォトトランジスタもないわけではありません。

 フォトトランジスタと言っても2本足ならフォトダイオードと同じではないかという疑問が出てくるかもしれません。しかしこれはまったく違います。フォトダイオードはpn接合またはpin接合でしたが、フォトトランジスタは図15-1に示すように通常のバイポーラトランジスタと同じようにnpn構造(またはpnp構造)をもっています。このため、エミッタとコレクタにつながる2本の足しかなくてもはたらきはダイオードとまったく異なります。

 図15-2(a)、(b)のエネルギーバンド図を使ってフォトトランジスタの動作を説明します。npn型のフォトトランジスタには図15-1に示すように、エミッタに対してコレクタにプラスのバイアス電圧をかけて使います。この場合、ベース-コレクタ間のpn接合には逆バイアスがかかりますから電流はほとんど流れません。

 ベース部分に光が当たると、図15-2(a)のように電子-正孔対ができます。発生した電子は同図のように接合内部の電界によって主としてコレクタ側に移動し、ベース部分にはあまりいなくなります。これに対して正孔はどちらにも電位の壁があって動けず、ベース部分に貯まっていきます。

 ベース部分に正の電荷が貯まると、エミッタ-ベース間の接合は順バイアスされたようになり、図15-2(b)に示すようにエミッタの電子がベース部分に拡散して入ってくるようになります。ベーズ部分に入った電子はやがてコレクタ側の電界に引かれてコレクタ電極へ向かって流れます。

 つまり光による電子-正孔対の発生を契機にエミッタ側から電子が流れ込みコレクタ側へ通り抜けることになります。このためpinフォトダイオードのように発生した電子と正孔がそのまま流れるだけでなく、エミッタから入った電子も電流に加わるので、大きな電流が流れます。これはバイポーラトランジスタによる増幅作用と同じ原理で、フォトトランジスタには増幅作用があることになります。

 このフォトトランジスタはいつ誰によって考案されたのかはっきりしませんが、トランジスタが発明された後、すぐに光による動作もわかっていたようです。具体的な素子構造としては図15-3に示すプレーナ型のバイポーラトランジスタと同じような構造がよく知られています(1)

 n型基板の上にn型層を着け、これをコレクタ層とします。このn型層のなかにp型領域を不純物拡散などによって作り、これをベース層とします。ベース層は表面に露出していてここに光を当てることができます。このp型領域のなかにさらにn型領域を作ります。これがエミッタ層となります。

 図の構造では基板の裏面にコレクタ電極、表面にエミッタ電極を着けています。またベース部分だけに光が当たるようにエミッタ部分には不透明な膜を着けています。図には描かれていませんが、ベース層表面には保護膜と反射防止膜を兼ねた透明な誘電体膜を着けることが多いです。

  この構造自体はエミッタ部分がやや端に寄せられていることを除くと、プレーナ型のバイポーラトランジスタとまったく変わりません。このため複数のトランジスタを一つの基板の上に集積化することも同じようにできます。電流をさらに大きく増幅したい場合にトランジスタをもう一つつないだ図15-4に示す回路が使われます。これはダーリントン型と呼ばれています。

 ところでフォトトランジスタは回路図のTrのようにベースのないトランジスタの記号で示されます。左側の矢印が入射光を表しています。

 図15-5はダーリントン型フォトトランジスタをプレーナ型集積回路によって実現した場合の断面構造の一例です(2)。左側のTrの部分がフォトトランジスタで、図15-3とまったく同じ構造です。その右側にあるのがTrの部分で、これは普通のトランジスタです。その右側にあるp領域は抵抗器として利用されています。図15-4には描かれていませんが、Trのベース-エミッタ間に抵抗器を接続すると暗電流の低減に効果があります。図15-5はこの抵抗器(バイパス抵抗)も集積化した場合を示しています。図ではトランジスタ間などの配線を外部で接続しているように描かれていますが、実際には集積回路表面上に金属膜をパターン加工することによって作り込みます。

 図15-3図15-5の構造の素子はシリコンを材料とする場合が想定されていますが、他の半導体で構成することももちろん可能です。アモルファスシリコンを使った薄膜型のフォトトランジスタもあります。また説明はしませんが、バイポーラでなく電界効果トランジスタ(FET)を使ったタイプも提案されています。

 このようなフォトトランジスタですが、フォトダイオードほど広くは使われていません。増幅作用があるので、感度は普通のpinフォトダイオードより優れています。また一つの素子で増幅作用があるので、新たに増幅器を付けなくてもよく、回路が簡単で済むという利点もあります。

 しかし問題は応答速度が劣る点です。これは光によって発生した電子と正孔がそのまま出力電流にならず、エミッタからの拡散電流が流れるまで待たなければならないためで、フォトトランジスタの動作原理上仕方がないものです。このためフォトトランジスタの用途は動作速度は遅くてもよいけれども、回路を簡単にしてスペースをとらないようにしたい場合などになるようです。

(1)特開昭63-073568号

(2)特開昭58-159384号

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