光デバイス/受光素子

4.光の吸収

 固体に光を当てると、光の一部は固体を通り抜け(透過し)、また一部は表面で反射されます。このとき透過した光の強度と反射された光の強度を足すと入射させた光の強度より小さくなります。光の一部が消えてしまったことになりますが、どこに消えたかというと固体の中でエネルギーを吸い取られて消えたのです。

 具体例をあげてみます。ガラス板に光を当てると大部分の光は透過しますが、表面がつるつるなガラスならば一部は反射されます。透過光と反射光に強度を足すと、ほとんど入射光の強度に近くなるはずです。つまりガラス板での吸収は非常に少ないということです。

 一方、表面をぴかぴかに磨いたアルミ板に光を当てるとほとんどの光は反射され、裏側に透過する光はまったくありません。入射光と反射光の強度はほぼ一致し、入ってきた光はすべて反射されアルミ板のなかには入らないので、透過どころか吸収もされないことになります。

 つぎに色の着いたガラスを考えてください。例えば教会のステンドグラスに使われているようなものです。透明なガラスに比べて透過する光はかなり弱くなっていることがわかると思います。反射される分は透明でも色つきでもそれほど変わらないはずなので、この弱くなった分は色ガラスのなかに吸収されたことになります。

 もう少し正確に吸収について調べておくことにします。吸収の大小を計るにはつぎのような方法が原始的ですが確実です。計りたい材料を板状にした試料を用意します。その厚みを測っておきます。図4-1のようにある強度、ある波長の入射光を板の片側から照射して反対側で透過光の強度を測ります。光の強度の測定にはまさに受光素子を用います。

 同じ測定を板の厚みを少しずつ変えながら繰り返し行います。板の厚みを変えるのに、初め厚い試料を作り少しずつ削って薄くする方法が使われます。厚みの違う多数の試料を用意するのに比べるとこの方が楽ですし、最初に一様な試料を作っておけば、別々に作った試料が本当に同じようにできているか心配する必要がなくなります。半導体などでは削るのに薬品で溶かす方法(エッチング法)が使われます。

 図4-2に示すように、このようにして測った値(●)を結ぶと曲線Cような結果が得られます。これより吸収の大きい材料はCのような結果になり、小さい材料はCのようになります(●は省略しました)。吸収の大きさを比べるには例えば透過光強度が半分になる厚みd、d、dを求めると比較が簡単です。図4-2のようにその大きさはd、d、dの順ですから、吸収はこの順に小さいことがわかります。

 一般に使われている吸収係数という量は同じ考え方ですが、強度が1/e(eは自然対数の底という数で約2.7という値です)になる厚みの逆数のことです。厚みの逆数にしたので吸収係数が大きいほど吸収も大きくなります。

 吸収の測定は波長を一定にして測定します。波長が変わってしまうと同じ材料でも吸収の大きさが変わります。基本的には波長が短くなる(エネルギーが大きくなる)と吸収が大きくなります。透明なガラスは可視光に対してはほとんど吸収がないのですが、波長の短い紫外光の範囲では吸収が大きくなります。またシリコンは金属のような感じに見えますが、これは可視光を吸収してほとんど通さないためです。しかし人間の眼には見えない赤外光はよく透過します。その材料が透明か不透明かは波長を指定しないとわかりません。ただ波長について何も断りがない場合は可視光での話というのが暗黙の了解でしょう。

 半導体の結晶の吸収係数を波長を変えて計ると、図4-3のようにある波長より短くなったところで急激に吸収が増え、ほとんど光が透過しなくなります。この境目がバンドギャップエネルギーに相当します。吸収が起きると光のエネルギーによって電子-正孔対が発生し、光電変換が起こります。

 そこで受光素子の材料も使う光の波長によって選ぶ必要があります。シリコンはバンドギャップエネルギーが1.1eVくらいですから、波長が1.1μmより短い近赤外光や可視光は吸収します。しかし1.1μmより長い波長の赤外光は吸収しません。このため可視光用受光素子の材料には使えますが、赤外光用の材料には使えません。赤外光用にはもっとバンドギャップエネルギーの小さいGeやInGaAsなどの材料が使われます。

 赤外光を吸収する材料は可視光も吸収するので、これで両方の波長に兼用で使えるようにも思われます。しかし実際はあまりよくありません。赤外光に相当するバンドギャップエネルギーをもった材料の吸収係数は可視光にたいしては非常に大きくなるので、可視光は半導体の表面すぐのところですべて吸収されてしまい中に入れないのです。接合は表面すぐのところにはないため、できた電子-正孔対は移動しないうちにまた結合して消滅してしまいやすく、折角吸収した光がうまく光電流にならないのです。これでは受光素子としては使えません。このため受光素子は普通、可視光用と赤外光用に分かれています。

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