電子デバイス/負性抵抗素子

17.まとめ

 通常の抵抗素子は印加する電圧を増加させるとそれに比例して流れる電流が増加します。これに対して負性抵抗素子では印加される電圧が増加すると電流が減少する特性をもちます。

 ここで注意しなければならないのは負性抵抗素子はその特性の一部に印加電圧を増加させると流れる電流が減少する、または流している電流を増加させると素子の両端に生じる電圧が減少する部分が現れるに過ぎないということです。本当に負の抵抗をもつ素子が存在するわけではありません。

 このような特性が生じるのは大体2つの特性の移り変わりによっています。pnpn接合素子では逆バイアス領域から接合降伏領域への移り変わり、ガンダイオードでは電気伝導を司る伝導帯の移り変わりのところで負性抵抗特性が現れます。したがってそのような移り変わりが起こる電圧や電流の条件を選ばないと、負性抵抗特性は得られません。

 このような素子が何に役立つのかですが、それぞれの素子固有の応用については各素子のところで触れています。負性抵抗素子全体に共通する応用については7項で説明をしていますので、繰り返しになりますが、負性抵抗素子を利用した電子回路は大体、発振回路、増幅回路、スイッチング回路の3種類です。このうち発振回路と増幅回路での負性抵抗素子の役割は正の抵抗の打ち消しです。通常の回路には必ず正の抵抗成分があってこれが信号を減衰させるのですが、負性抵抗はこれを打ち消すことができます。なぜそのようなことが可能かといえば、負性抵抗素子には電源からエネルギーが供給されているので、このエネルギーによって損失するエネルギーが補われているに過ぎません。

 スイッチング回路の方は負性抵抗そのものの応用というより、負性抵抗素子特有の二つの状態(特性)の間での移り変わりを利用するものです。負性抵抗素子と選定した正の抵抗を組み合わせることにより、電圧または電流の大きい状態と小さい状態を切り換えられるので、スイッチング回路が実現できます。サイリスタの電力応用はまさにこの例です。

 今後、新しい負性抵抗素子が現れるでしょうか。根拠のある予測はできませんが、可能性はあるように思われます。集積回路における素子の微細化により、いろいろ今までにない特性が観測されています。このなかにもしかすると新しい負性抵抗の原理が隠れているかもしれません。大規模な集積回路を製造する技術が確立するにつれて、新しい個別素子を開発して何かをしようという機運は減退してしまったかに見えます。しかし集積回路の限界が見えてきている現状で、負性抵抗素子に限らず、新しい物質の特性を利用した素子が登場するかもしれません。