光デバイス/発光ダイオード
7.ヘテロ接合
LEDはpn接合を基本的な構造としてもっていなければなりませんが、もっとも簡単には同じ材料、例えばp型GaAsとn型GaAsとを接合させてpn接合を作ることができます。
p型とn型のちがいは電流を運ぶキャリアが正孔か電子かということですが、半導体の電気的な性質はまったく異なります。しかし材料としては異なるドーパントがわずかppmのレベルで入っているだけの違いで、このキャリアの種類以外の性質はほとんど変わりません。とくにエネルギーバンドギャップの大きさや格子定数はまったく変わりません。これは普通のpn接合ですが、とくにホモpn接合、略してホモ接合と言います。
これに対して例えばGaAsとAlAsのように性質のちがう半導体をpn接合させたものをヘテロpn接合、略してヘテロ接合と呼びます。同じ伝導型のpp接合やnn接合であってもエネルギーバンドギャップなどの性質が違えばヘテロ接合の一種と言えないわけではありませんが、pn接合を含まないデバイスはほとんどないので、通常は考えなくてよいと思われます。
GaAsとSiとか、GaAsとZnSeとかの種類の異なる組み合わせもヘテロ接合ですが、と言うよりこれらが真のヘテロ接合かも知れませんが、実際に実用的に使われているヘテロ接合のほとんどはⅢ-V族化合物半導体の範囲内での異なる混晶の組み合わせです。
混晶とは例えばGaAs中のGa原子の数%から数10%をAl原子で置き換えた材料の結晶のことです。置き換えが例えば20%の場合なら、この材料のことをAl<sub>0.2</sub>Ga<sub>0.8</sub>Asと書きます。簡単にはAlGaAsのように置き換えの割合を特定しない書き方をする場合もあります。
このように数%程度以上の量の異なる原子が入ってくると、エネルギーバンドギャップなど半導体としての性質がもとのGaAsともAlAsとも違ってきます。
発光ダイオードや半導体レーザとしては上記のGaAsとAlGaAsの組み合わせが代表的です。青色発光ではGaNとGaAlNやInGaNの組み合わせによるヘテロ接合が使われています。
それではヘテロ接合を使うと何か良いことはあるのでしょうか。ヘテロ接合のエネルギーバンド図を描いてみます。図はかなり誇張してあります。図7-1(a)ではエネルギーバンドギャップが倍もちがう材料の組み合わせを示しました。これは説明をわかりやすくするためで、Gaの20%をAlに置き換えたGaAsとGaAlAsのヘテロ接合ではこんなにはちがいません。また図は折れ線で描かれていますが、これは便宜的に簡略化したもので本当はなめらかな曲線です。
図7-1(a)では左側の半導体Nがn型で、右側の半導体Pはp型です。半導体Nの方が半導体Pに比べてエネルギーバンドギャップが大きくなっています。図7-1(b)は比較のためにホモ接合の場合を示しています。ホモ接合との大きな違いはエネルギーバンドギャップが異なるために接合部分に尖った不連続な部分ができることです。この部分のことをスパイクなどと呼びます。
さてこのヘテロ接合に電池をつないで電流を流してみます。半導体N側にマイナス極、半導体P側にプラス極をつなぎます。すると半導体N側にたくさんいる電子はスパイク部分を乗り越えやすくなり、半導体P側に流れ込みます。半導体P側の接合の境界に近いところには窪みのような部分があります。電子はこの部分に貯まりやすくなります。
一方、半導体P側にたくさんいる正孔はどうなるかというと、半導体N側に流れ込もうとしますが、ホモ接合の場合に比べると接合部分の障壁(バリア)が高くてこれを乗り越えられずあまり半導体N側に流れ込めません。つまり正孔も接合の境界付近に貯まりやすくなります。
このように電子と正孔が半導体P側の接合の境界に近い部分に貯まってくる傾向にありますが、ホモ接合では電子も正孔も接合の境界部分を通過していくだけですので、同じ電流を流した場合、ホモ接合よりもヘテロ接合の方が電子と正孔が結合する確率が高くなります。このため同じ電流を流して比べるとヘテロ接合の方が強い発光が起きる、つまり発光効率が高くなるという良い点があるのです。発光は主にP側で起きますから、出てくる光の波長はn型半導体ではなくp型半導体のエネルギーバンドギャップに対応したものになります。
ヘテロ接合とは異なる種類の半導体の接合を意味しますが、とくにエネルギーバンドギャップの違いが重要です。具体例を見てみましょう。GaAsのエネルギーバンドギャップは室温で約1.43eVです。eVは電子ボルト(エレクトロンボルト)というエネルギーの単位です。1個の電子がもつ電荷を単位電荷といいますが、この単位電荷を1ボルトの電位差だけ持ち上げる(増やす)のに必要なエネルギーが1eVです。1.43eVのエネルギーは光の波長に直すと867nmで、これは赤外光の波長範囲に当たります。一方、AlAsのエネルギーバンドギャップは2.16eVくらいです。これは波長に直すと574nmくらいで、可視光の範囲です。
例えばAlGaAsでは、AlとGaの組成比を変えると、バンドギャップエネルギーもその組成比にしたがって変わります。上の例のAl<sub>0.2</sub>Ga<sub>0.8</sub>Asは大体1,67eV(波長:742nm)くらいのバンドギャップエネルギーになります。Alを増やしていくと発光する光の波長は短い方へ変えられることがわかります。
このように2つの化合物半導体の間の混晶を作ると、そのエネルギーバンドギャップは元の2つの半導体の中間の値になります。また2つの化合物の混合割合によってエネルギーバンドギャップの値はコントロールできますから、望みのエネルギーバンドギャップをもつ半導体が得られます。
というと何でも可能なように思われるかもしれませんが、実際にはいろいろな制約があり、発光素子として利用できる組み合わせは限られています。この事情については後に紹介することになります。