光デバイス/発光ダイオード

27.静電気破壊対策

 発光ダイオードの寿命を確保するためには前項で説明した静電気放電(ESD)による破壊に対する対策が非常に重要です。照明器具や信号灯などの製品では外部回路に保護素子を入れるなどの対策がとられるのが一般的ですが、LED素子の外側でとられる対策については後に触れることにし、ここではLED素子そのものへの対策を取り上げます。

 LED素子の構造に対してとられる対策は実際に使用される製品の保護のほかに製造段階での保護が考慮されます。素子を実装する工程では素子のボンディングなどの際に裸の素子にどうしても触れる必要があります。このときに静電気放電が起きると素子に直接損傷が及ぶ恐れがあります。

 このため実装工程を行う室内は空気に加湿するなど静電気の帯電を防止する対策が取られます。そのうえで素子も耐性が高いことが当然望まれます。一例を図27-1に示します(1)

 この図は多数のLED素子の静電破壊電圧を測定した結果を示しています。測定は前項図26-3に示したような回路を使って行えます。ほとんどは1500~1700Vの破壊電圧をもっていますが、10数%ほどは300V以下で破壊してしまうものが含まれています。

 この特許ではこの低電圧破壊の原因は、ウェーハ状態で製造した素子を1つずつの素子に切断した後、露出した半導体表面に異物が付着し、リーク電流が大きくなったためとしています。

 これに対する対策として素子の切り分けの際も、活性層より上側は半導体が剥き出しにならないように保護膜を先に設けておくことにより、低電圧で破壊する素子をなくすことができたとしています。このように異常に低い破壊電圧の素子が一定割合で含まれる場合はその原因を解明し、対策をとることが有効です。

 さらに素子本来の破壊電圧を改善しようという試みもいろいろ提案されています。ひとつの代表的な方法は、素子内に保護機能を組み込むものです。

 図27-2は発光ダイオードの断面図です。この素子の通常の素子との違いは、n型電極とp型電極の間に薄膜素子を設けてあることです。この薄膜素子の電流-電圧特性は例えば図27-3のようになっているとします。これはある程度の電圧がかかると素子の抵抗が急に小さくなる特性です。大きな電圧がかかっても電流が薄膜素子の方に流れてバイパスされるため、素子が保護される、という仕掛けです。

 このような都合のよい特性をもった薄膜素子があるのかというのが問題ですが、例えばGaN系発光ダイオードに薄膜素子としてZnO薄膜を設けた例があります(2)

 もう一つ、発光ダイオードの構造そのもので静電破壊に対する耐性を改善する手段が提案されているので紹介しておきます。

 これは発光ダイオードの半導体積層構造のなかに中間層としての半導体層を追加して静電破壊耐性を改善しようという提案です。

 例えば図27-4は中間層を追加したGaN系発光ダイオードの層構造を示す断面図です。発光層と基板の間の半導体層(通常n型層)にESD層と呼ぶ静電破壊防止に効果のある層が挿入されています(3)

 素子の構造を説明すると、サファイアなどの基板上にバッファ層(図示省略)、n型AlGaN層を積層し、その上に、Geを高濃度(1×1019cm-3程度)にドープしたGaN層を成長すると、このGaN層に図のようなイメージ小孔(ピット)が発生するとされています。ピットの密度は107個/cm2程度とかなり高濃度です。ピットがなぜできるのかはよくわかりませんが、AlGaNとGaNの格子不整合、不純物のGeが何らかの寄与をしているようです。

 さらにこの上にノンドープi-GaN層を成長すると、ピットが埋め込まれ、表面が平坦になりますから、その上に発光層を含む発光のための半導体層が積層できます。

 このようなピットのある層を含むと破壊電圧は下がってしまうようにも思えますが、実験結果では逆に破壊を防ぐ効果があることが示されています。このような素子では導電率の高い尖った凹みがiGaN層表面にできることになり、ここに電流が集中することになります。その部分の大きさと密度が適当であれば、電流はうまく分散されるので、大きな電流集中、電界集中は防げるのではないかと考えられています。

 敢えて表面にピットがある層を挿入するという意外な方法で、静電破壊電圧は向上できるという興味深いトピックスです。

   

(1)特開2000-261042号

(2)特開2005-136177号

(3)例えば特開2006-31377号