光デバイス/発光ダイオード
19.発光ダイオード材料の具体例(その2)
前項では、AlGaInAs系、InGaAsP系、AlGaInP系の3種類の混晶系について、直接遷移、間接遷移の範囲を見ました。そして重要な材料系としては窒素を5族元素とするAlGaInN系について最後に少しだけ触れました。
発光ダイオードの発光層の材料を選ぶ場合、まず直接遷移型であることが重要なことはこれまで説明した通りですが、それだけですべてが解決するわけではありません。発光層は良質な結晶である必要があります。結晶に欠陥が多く含まれていると、電子、正孔が欠陥を介して再結合しやすくなります。このような欠陥を介した再結合は発光を生じない場合が多いのです。
発光ダイオードはこれまでにも例をあげたように、基板の上に発光層を含む半導体層が積み重ねられています。この半導体層を欠陥の少ない結晶層とするための基本は、基板と半導体層各層の格子定数(結晶中の原子間の距離)を一致させることです。しかしこれは理想で、現実の材料系ではなかなか難しいと言えます。
前項の例を見るとGaAsの格子定数は0.565nm、AlAsは0.566nmです。GaAsとAlAsの格子定数の不一致の程度は(0.566-0.565)/0.566×100(%)から計算され、約0.18%となります。このくらいの違いならよいですが、0.5%くらい違うと問題になってきますから、条件はかなり厳しいものです。
前項のデータに窒化物系のデータを加えてもう一度整理してみます。図19-1は横軸に格子定数、縦軸にバンドギャップエネルギーをとったものです。このようなグラフはよく使われています。
図は5族元素の種類ごとに色分けしてみました。Asの化合物が赤、P化合物が青、N化合物が緑です。Nを含む系は格子定数、バンドギャップエネルギーともに3族元素によって大きく変化するのが特徴です。
Ⅲ-Ⅴ族化合物で基板となる結晶として選べるのはほとんどGaAsとInPだけと言っていい状態です。この他、GaPなどもバルク結晶が成長できますが、あまり使われていません。となるとまずGaAs基板かInP基板を使うことを考え、これに格子定数が一致する材料を選定することになります。
図の破線はそれぞれGaAsとInPの格子定数を示します。この線上にくる組成で、かつ直接遷移型であれば、発光層として使える可能性が高いことになります。前項同様に具体的な系で考えてみます。
1.AlGaInAs系(赤い三角形) AlGaAsはAl組成全体にわたってGaAsに格子整合していることはこれまで述べてきた通りですが、Inが加わるとGaAsには整合しなくなります。一方、InPにはInを含む組成で格子整合する範囲があります。これは赤外域の発光となりますが、それほど使われていません。
2.AlGaInP系(青い三角形) GaAsに整合する範囲があります。AlPとGaPも格子定数がほとんど等しく、バンドギャップエネルギーも近いので、GaAsに整合させる条件はほとんどIn組成だけで決まります。これが大体0.5です。つまり(AlxGa1-x)0.5In0,5PがGaAsに整合します。AlとGaの組成比を変えれば、直接遷移の範囲で発光波長を変化させることができます。赤色発光に貴重な存在です。
3.InGaAsP系 5族が2種類になるので、図は少しわかりにくくなりますが、GaAs、InAs、GaP、InPの4点で囲まれる4角形を考えます。GaAsにもInPにも整合する組成があることがわかります。GaAsに対する整合組成はAlGaAsの発光波長と同じ範囲になりますので、なにか特別な理由がないと使われません。一方、InPに対する整合組成は上記のAlGaInAsとほぼ同様な波長範囲ですが、こちらの方が赤外域ではよく使われています。
4.InGaAlN系(緑色の線) InNに近い組成でGaAsと整合することができますが、発光波長は赤外域になりますので、あまり使われません。可視光の範囲ではGaAsともInPとも整合範囲がありません。
以上より、実用的に使われているAlGaAs/GaAs基板系、InGaAsP/InP基板系、AlGaInP/GaAs基板系はそれぞれ使われる理由があることがわかると思います。
しかしGaPやGaAsP、あるいはAlGaInN系などは上記の点では使えない部類に属します。にも拘わらず実際には実用的な素子として使われています。これはなぜでしょうか。次項以降ではそのために考えられた手段などを調べることにします。