光デバイス/発光ダイオード
17.直接遷移型半導体と間接遷移型半導体半導体の性質をもつ材料は、純度が高く、かつ良質の結晶が成長できるというものに限ってもいろいろ選択できます。さらにp型、n型の両方が作れるものもいろいろあります(p型、n型が両方ともあるいは片方だけ作りにくいものもありますが)。
しかしp型、n型両方ができて、pn接合が作れたとしても、そこに電流を流したとき眼で見て発光が確認できないか、あるいは非常に弱い材料もあります。よく発光する材料としない材料は何がちがうのかは前項でも説明したように、簡単な説明が難しい問題です。しかし何も説明しないわけにもいかないので、少しだけ触れておきます。ただし前項の繰り返しになりますが、これは通常の常識の範囲で直感的に理解できる説明は難しく、3次元結晶のバンド理論の話をしなければなりません。バンド理論とはどんなものなのかについては別に説明しますので、ここではそういうものがあることを前提にします。
LEDの発光は半導体中に注入された電子と正孔が結合し、そのとき失うエネルギーが光になって放出されると説明されています。3次元結晶のバンド構造は図17-1のようなイメージに書けます。縦軸は電子のエネルギーEで横軸は波数kで、これは運動量に相当します。この横軸が位置を表しているわけではないので、直感的に理解がしにくいかと思います。
青い曲線は励起された電子が自由に動ける伝導帯のエネルギーの下端を示しています。そのもっともエネルギーの低いところ(底)に電子が溜まりやすくなります。また赤い曲線は価電子帯の上端を示し、そのもっともエネルギーの高いところ(頂上)は電子が抜けやすいので、正孔が溜まります。普通よく半導体のバンド図として示される図はこの伝導帯の底と価電子体の頂上を、横軸に位置をとって示したもので、上の図とは違うものです。
図17-1のように等しい運動量(横軸k)のところに伝導帯の底と価電子帯の頂上があるときは、図の矢印のように電子が価電子帯に向かって落ち込み、そのとき失う伝導帯の底と価電子帯の頂上のエネルギー差ΔE(バンドギャップエネルギーに相当)に等しいエネルギーの光を放出します。このようなバンド構造をもつのが発光する材料の条件です。電子が価電子帯へ落ち込むことを遷移といいますので、このような材料を直接遷移型と呼びます。
ところで3次元結晶においては原子の並び方が方向によって異なりますから、その方向によってEとkの関係が異なってきます。その結果、図17-2のように伝導帯のエネルギー最小点と価電子帯の頂上が異なるkの値にきてしまうことがあります。この場合、電子は図のXと書いたところに溜まり、正孔は価電子帯のΓのところに溜まります。電子が図17-1のようにまっすぐ下の価電子帯へ落ちようとしてもそこには正孔がいません。正孔と結合するためには電子はkを変化させ、伝導帯のX点から価電子帯のΓ点へ向かって斜めに遷移しなければなりません。
この遷移自体は不可能ではありませんが、電子のエネルギーが光に変わるとき、エネルギーと運動量は保存されなければなりません。ところが量子論の要請で光は電子が失うこのような大きな運動量は持つことができません。このため斜めの遷移が起こっても運動量保存則が成り立つような光は存在しないことになります。発光を起こさせるには図の矢印のような遷移に相当する光を放出させ、破線のような運動量変化は何か他の現象に担ってもらうしかありません。このような2つの現象の組み合わせは起こりにくいので、発光は起こりにくく、このような材料は実用的なLEDには向きません。このような材料を間接遷移型と呼びます。
繰り返しになりますが、以上のようなことがなぜ起こるのか、直接遷移型と間接遷移型の物質は何がちがうのかを言葉で直感的にわかるように説明するのは難しいと思います。理論的にもかなり立ち入って正確なバンド構造の計算を行わないとその物質が直接遷移型か間接遷移型かについて結論を得ることはできません。ここでは材料の性質の違いとして受け入れていただくしかありません。