産業/標準化

11.JISの実例(4)-光ディスク-

 電気、機械と見てきましたので、つぎは情報分野の例を見てみましょう。取り上げるのは光ディスクです。情報の記憶、保存に用いられるCDとかDVDがこれに当たります。板状の媒体を使い、レーザ光を使って情報の書き込み、読み出しを行うので、光ディスクと総称されます。

 情報記憶、記録の分野では磁性体を使って磁気により情報を読み書きするものが先行して使われました。媒体としてはテープやディスクがあります。音声や画像用の記憶媒体としてはテープが先行して使われましたが、ほぼすべてがディスクに置き換えられ、現在コンピュータ用の大容量記憶装置としてハードディスクが使われています。

 しかし磁気記憶装置は次第に光ディスクに置き換えられました。この光ディスクも次第に半導体メモリに置き換えられつつありますが、標準の例としては興味深いところがあるので、ここで取り上げてみます。

 現在使われている代表的な光ディスクとしてはCD(Compact Disc)とDVD(Digital Versatile Disc)があります。これらについては一連の規格がありますが、代表例としてCDについて見てみます。

 このような光ディスクを標準化するにあたっては二つの主題があると言えます。一つは物理的なディスクのサイズなどに関する規格です。ディスクは読み出し、書き込みを行う装置に取り付け、回転させなければならないため、形状を規定し、装置の仕様と一致させる必要があります。

 もう一つは情報の記録方式です。ディスク上に螺旋(らせん)状に情報を並べて書き込む順序を定め、それに従って読み出しを行わなければなりません。どのような情報をどのように配列するかを規定する必要があります。

 CDの物理的な特性を規定したJISの例としてはJIS X 6281:2005があります。規格名は「120mm再生専用形光ディスク(CD-ROM)」で、一度情報を書き込んだら消去できず、再度の書き込みもできないタイプのCDに関する規格です。写真は直径120mmのCD-ROMです。

 序文によるとこの規格はISO/IEC 10149:1995 "Data interchange on read-only 120mm optical data disks (CD-ROM)"の翻訳JISです。22箇条と6つの附属書からなっています。

 機械的特性については[8.機械的特性、物理的特性及び寸法特性]のところに図面によってディスクの断面構造が規定されています。さらに[9.入射面の機械的偏位]、[10.反射層の偏位]、[11.物理トラック幾何]などの規定があります。[12.光再生システム]ではディスクから信号を読み出す電気的、光学的システムを規定しています。

 物理トラックとは[4.定義]の4.10に「光学ヘッドが追従する、ディスク上の連続したら(螺)旋状の線の360度分の経路」とあり、この物理トラックは連続したピット(くぼみ)からなることが[11.物理トラック幾何]に規定されています。

 [13.記録の一般事項」以下には、[14.デジタルデータトラックのセクタ]など記録するデータの並びに関する決め事が記されています。セクタというのは番地が付けられる情報の最小単位のことで2352バイトで構成されますが、さらにその1セクタ内の情報の配列が細かく規定されています。

 この規格はデータ記録用のCD-ROMを対象にしていますが、CDには音楽用のものがあります。これについてはデータの方式が異なり、この規格の引用規格にも挙げられているように、JIS S 8605:1993「コンパクトディスクデジタルオーディオシステム」という規格がありましたが、この規格はすでに廃止になっています。120mmCDは従来のカセットテープより大きいため、携帯用には向かず、音楽用としては早くから半導体メモリが使われるようになっていたからと思われます。ただ音楽の媒体としてはまだ市販されていますから、廃止はずいぶん早いようにも思われます。

 JIS S 8605が廃止されてしまったので、引用規格が存在しないことになってしまいました。それに対する手当として、この規格には「追補1」が2012年に追加され、引用規格は元々の国際規格であるIEC 60908で読み替えることになっています。

 一方、CD-ROMのファイル構成を規定したJISとしてはJIS X 0606:1998があります。規格名は「情報交換用CD-ROMのボリューム構造及びファイル構造」です。

 序文によるとこの規格はISO 9660:1988 "Information processing-Volume and file structure of CD-ROM for information interchange"をもとに作られたとあり、追加事項があるとされています。第1から第3の3つの章分けがされていますが、通しの番号で13箇条と1つの附属書からなっています。3つの章は第1章が「一般」、第2章が「媒体に対する要件」、第3章が「システムに対する要件」となっています。第2章は媒体すなわちCD-ROM上のデータの配置に関する規定で、上記のJIS X 6281と関連性の強い規定です。第3章は利用者と処理システムの間での情報の授受に関する規定となっています。

 この他、CDに関しては書き込みができるCD-RについてJIS X 6282、複数回読み書きができるCD-RWについてはJIS X 6283の規定があります。

 またJIS X 0606に対応するDVDについてはJIS X 0610:2006があります。これはDVDフォーラムという団体規格をもとに作られた規格です。さらにブルーレイディスクについてはJIS X 6230~6233の規定があります。

 もっとも一般的な12cm径の光ディスクはCDからDVD、さらにブルーレイディスクへと発展してきました。いずれも現在は国際規格がありますが、そこに至るまでには規格の主導権争いがありました。これは2000年代前半に内外の電気メーカーがDVDより記録容量の大きい光ディスクの開発を行った結果、ブルーレイディスク方式とHD-DVD方式の2つの陣営に分かれて規格争いをしました。HD-DVDはのちに上記のDVDフォーラムが担うことになりましたが、2000年代後半に至ってブルーレイディスクアソシエーションという団体に属する企業数が優勢になり、ブルーレイ方式に統一されることになりました。

 ブルーレイ方式はその後、2016年には国際規格(ISO/IEC 30190)になり、翌年にはこれが翻訳されたJIS(JIS X 6230~6233:2017)にもなっています。デジュール標準は制定に時間がかかると言われますが、この例のように規格の争いが決着し、ある規格が普及するのを待って制定されるのがデジュール標準であると考えれば、これはむしろデジュール標準が制定されるに至る過程の典型例とも言えそうです。