科学・基礎/半導体物理学

26.1次元バンド理論

 前項で導出したフーリエ展開した周期ポテンシャル    \[V\left ( x \right )= \sum_{m= -\infty }^{\infty }V_{m}\exp\left (-\frac{2\pi imx}{a} \right )\tag{1}\] と波動関数    \[\begin{align}\psi\left ( x \right ) &= \exp\left ( ikx \right )\sum_{n= -\infty }^{\infty }A_{n}\exp\left ( -\frac{2\pi inx}{a} \right ) \\ &= \sum_{n= -\infty }^{\infty }A_{n}\exp \left\lbrace ix \left (k-\frac{2\pi n}{a} \right )\right\rbrace\tag{2}\end{align}\] を一電子モデルの一次元シュレディンガー方程式    \[\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{\mathrm{d^{2}} }{\mathrm{d} x^{2}}\psi \left ( x \right ) + \left \{ E-V\left ( x \right ) \right \}\psi \left ( x \right )= 0\tag{3}\] に代入します。

 このシュレディンガー方程式が 0 でない波動関数の解をもつ条件を求めるのが、準備段階の目的です。式の整理がやっかいですが、代入後のシュレディンガー方程式の左辺第1項の2階微分をまず実施します。     \[\begin{align} &-\frac{\hbar^{2}}{2m}\sum_{n= \infty }^{\infty }\left \lbrack A_{n}\left ( k-\frac{2\pi n}{a} \right )^{2} \exp \left\lbrace ix \left ( k-\frac{2\pi n}{a} \right )\right\rbrace\right\rbrack \\ &+E\sum_{n= -\infty }^{\infty }A_{n}\exp \left\lbrace ix\left ( k-\frac{2\pi n}{a} \right ) \right\rbrace \\ &-\sum_{m= -\infty }^{\infty }V_{m}\exp \left ( -\frac{i2\pi mx}{a} \right )\sum_{n= -\infty }^{\infty }A_{n}\exp \left\lbrace ix\left ( k-\frac{2\pi n}{a} \right ) \right\rbrace \\ &= 0\tag{4}\end{align}\]

 つぎに左辺の3番目の項にさらに次のように手を加えます。   \[\begin{align} (4)式左辺第3項 &= \sum_{m= -\infty }^{\infty }\sum_{n= -\infty }^{\infty }V_{m}A_{n}\exp \left\lbrack ix \left\lbrace k-\frac{2\pi \left ( m+n \right )}{a} \right\rbrace\right\rbrack \\ &= \sum_{m= -\infty }^{\infty }\sum_{n= -\infty }^{\infty }V_{m}A_{n-m}\exp \left\lbrace ix \left ( k-\frac{2\pi n }{a} \right )\right\rbrace\end{align}\]  2行目の変形が許されるのか疑問かもしれませんが、\(\Sigma\) の加算が \(m\) も \(n\) も \(-\infty\) から \(+\infty\)まで行われるので、上式のように \(n\) を \(n-m\) に置き換えても加算結果は変わりませんから、このような変形は可能です。これは \(\exp\) の項を共通して次式のように括り出すために行われる数式変形のテクニックです。(4)式は    \[\sum_{n= -\infty }^{\infty }\left\lbrack -\frac{\hbar^{2}}{2m} \left ( k-\frac{2\pi n}{a} \right )^{2} A_{n} + EA_{n} -\sum_{m= -\infty }^{\infty }V_{m}A_{n-m}\right\rbrack \exp \left\lbrace ix \left ( k-\frac{2\pi n}{a} \right )\right\rbrace= 0\tag{5}\] となります。

 (5)式が成り立つためには [ ] の中が 0 でなければなりません。    \[-\frac{\hbar^{2}}{2m} \left ( k-\frac{2\pi n}{a} \right )^{2}A_{n} + EA_{n} -\sum_{m= -\infty }^{\infty }V_{m}A_{n-m}= 0\tag{6}\] これより    \[A_{n}= \frac{1}{E-E_{n}}\sum_{m= -\infty }^{\infty }V_{m}A_{n-m}\tag{7}\] が得られます。ここで    \[E_{n}= \frac{\hbar^{2}}{2m}\left ( k- \frac{2\pi n}{a}\right )^{2}\] と置きました。

 ここで \(A_{0}\) を求めておきます。\(n=0\) とすると    \[A_{0}= \frac{1}{E-E_{0}}\sum_{m= -\infty }^{\infty }V_{m}A_{-m}\tag{8}\]  さらに後の利用のために少し脇道に逸れますが、(1)式のポテンシャル \(V\) の共役複素数 \(V^{*}\) をとると    \[V\left ( x \right )^{\ast }= \sum_{m= -\infty }^{\infty }V_{m}^{\ast }\exp \left ( \frac{2\pi imx}{a} \right )\tag{9}\] となりますが、ポテンシャルは実数ですから    \[V\left ( x \right )^{\ast }= V\left ( x \right )\tag{10}\] です。\(V \left( x \right)\) の方は少しテクニック的になりますが    \[V\left ( x \right )= \sum_{m= \infty }^{-\infty }V_{-m}\exp \left ( \frac{2\pi imx}{a}\right )\tag{11}\] とも書けますから、    \[V_{-m}= V_{m}^{\ast }\tag{12}\] であることがわかります。これを(8)式に入れると    \[A_{0}= \frac{1}{E-E_{0}}\sum_{m= \infty }^{-\infty }V_{m}^{\ast }A_{m}\tag{13}\] が得られます。

 さて、(7)式に戻りますが、この式で \(m\) を \(-\infty\) から \(+\infty\) まで実際に加算することは不可能です。そこでとりあえず \(m=n\) の場合だけを考え、他の項は無視します。(7)式は簡単になり、    \[A_{n}= \frac{1}{E-E_{n}}V_{n}A_{0}\tag{14} \]となります。また(13)式は    \[A_{0}= \frac{1}{E-E_{0}}V_{n}^{\ast }A_{n}\tag{15}\] となります。

 この2つの式(14)、(15)は    \[\begin{align} \left ( E-E_{0} \right )A_{0}-V_{n}^{\ast }A_{n} &= 0\tag{16} \\ -V_{n}A_{0}+\left ( E-E_{n} \right )A_{n} &= 0\tag{17}\end{align}\] という \(A_{0}\)、\(A_{n}\) に関する斉次連立方程式となります。\(A_{0}\)、\(A_{n}\) に 0 でない解があるためには    \[\begin{vmatrix} E-E_{0} & -V_{n}^{\ast } \\ -V_{n} & E-E_{n} \end{vmatrix} = 0\tag{18}\] が成り立たなければなりません。この行列式を計算すると    \[E^{2}-\left ( E_{0} +E_{n} \right )E+\left ( E_{0}E_{n} -V_{n}V_{n}^{\ast } \right )= 0\tag{19}\] となり、これは \(E\) に関する2次方程式ですから、これを解くと    \[E= \frac{1}{2}\left [ E_{0}+E_{n}\pm \left \{ \left ( E_{0}-E_{n} \right )^{2} +4V_{n}V_{n}^{\ast }\right \}^{1/2} \right ]\tag{20}\] という条件が得られます。

 この式(20)がどんなことを示しているかを調べます。この式のままでは具体的に考えられないので、近似を考えます。電子にはたらくポテンシャルエネルギーは小さく、ほとんど自由電子モデルから大きく離れていない場合を考えます。これを"Near Free Electron"モデルと呼ぶことがあります。

 まず見通しを付けるために \(V_{n}V_{n}^{*}\) が小さくてほとんど無視できる場合を考えます。(20)式は \(V_{n}V_{n}^{*}=0\) と置くと、    \[E= \frac{1}{2}\left \{ E_{0}+E_{n} \pm \left | E_{n}-E_{0} \right |\right \}\tag{21}\] となります。式中にある \(\pm\) に対応して \(E_{+}\) と \(E_{-}\) と置いて    \[\begin{align} E_{+} &= \frac{1}{2}\left \{ E_{0}+E_{n} +\left | E_{n}-E_{0} \right |\right \}\tag{22} \\ E_{-} &= \frac{1}{2}\left \{ E_{0}+E_{n} -\left | E_{n}-E_{0} \right |\right \}\tag{23}\end{align}\] 絶対値の部分を場合分けすると    \[\begin{align} E_{+} &= E_{n}\: \: \: \: \left ( E_{n}> E_{0} \right )\tag{23a} \\ E_{+} &= E_{0}\: \: \: \: \left ( E_{n}< E_{0} \right )\tag{23b} \\ E_{-} &= E_{0}\: \: \: \: \left ( E_{n}> E_{0} \right )\tag{24a} \\ E_{-} &= E_{n}\: \: \: \: \left ( E_{n}< E_{0} \right )\tag{24b}\end{align}\] となります。    具体的なグラフを描くために \(n=\pm 1\) の場合を考えます。自由電子のエネルギーは    \[E_{n}= \frac{\hbar^{2}}{2m}\left ( k-\frac{2n\pi }{a} \right )^{2}\tag{25}\] ですから、    \[\begin{align} E_{0} &= \frac{\hbar^{2}}{2m}k^{2}\tag{26} \\ E_{\pm 1} &= \frac{\hbar^{2}}{2m}\left ( k \mp \frac{2\pi }{a} \right )^{2}\tag{27}\end{align}\]

 (26)、(27)式のエネルギーは横軸に \(k\) を取って描くと図26-1のようになります。(23)、(24)式の場合分けを考えると境目は \(n=0\) と \(n=\pm 1\) の曲線の交点になります。\(E_{+}\)、\(E_{-}\) を色分けで示したのが、図26-2です。交点は    \[k= \pm \frac{\pi }{a}\] のところにあります。

 以上はポテンシャルを無視した場合ですが、ポテンシャルが小さくても無視できないのは    \[\left ( E_{0} -E_{1}\right )^{2}\] が小さく零に近い場合です。それは交点付近であることがわかります。

(20)式で \(n=1\) とし、    \[\left ( E_{0} -E_{1}\right )^{2}= 0\] と置くと、\(k=\pi/a\) のところのエネルギーは    \[\begin{align} E_{\pm }\left ( \frac{\pi }{a} \right ) &= \frac{1}{2}\left \{ 2E\left ( \frac{\pi }{a} \right ) \pm \left ( V_{1} V_{1}^{*}\right )^{1/2}\right \} \\ &= E\left ( \frac{\pi }{a} \right ) \pm \left | V_{1} \right |\tag{28}\end{align}\] となります。ここで \(E \left(\pi/a \right ) \) は(26)、(27)式の交点のエネルギーです。(28)式は交点であったところは実は図26-3のように \(2V_{1}\) のギャップを生じることを示しています。なお、図示したギャップ付近の曲線は正確なものではありません。このような感じになるといった程度でお考え下さい。

 上記の \(n=1\) の場合を拡張し、さらに \(n=2\)、3・・・となった場合も図26-4のように \(k=2\pi /a\)、\(3\pi /a\)・・・のところで \(2V_{2}\)、\(2V_{3}\)・・・というギャップを生じることになります。図の細い黒色の曲線はそれぞれ(25)式で \(n=0\)~3 とした場合を示していますが、ギャップから離れたところではエネルギー(E-k)曲線はこれらとまったく重なっています。これがほとんど自由電子に近いモデルの特徴で、ポテンシャルの影響はギャップ付近のみに現れます。

 図26-4は \(k\gt 0\) の側しか描いていませんが、\(k\lt 0\) も対称になります。ここで    \[-\frac{\pi }{a}\leq k\leq \frac{\pi }{a}\] の範囲を第1ブリルアンゾーンと言います。さらに    \[-\frac{2\pi }{a}\leq k\leq -\frac{\pi }{a}\] および    \[\frac{\pi }{a}\leq k\leq \frac{2\pi }{a}\] の範囲を第2ブリルアンゾーンといい、以下第3、第4・・・となります。

 ゾーンを日本語にしてブリルアン領域とかブリルアン帯域などということもあります。ブリルアンはフランスの物理学者(Leon Brillouin)の名前で、この他にもブリルアン散乱とかブリルアン関数などに名を残しています。日本ではブリュアンと呼ぶ場合もありますが、これが恐らくフランス語読みから、ブリルアンの方は英語読みから来ているように思いますが、確かではありません。この2つともさらに違う表記をしている本もあり、発音の仕方がまちまちですが、あまり気にしない方がよいでしょう。

 \(n\) を正負に広く採り、エネルギー(\(E-k\))曲線を求めると、図26-5のように周期的な曲線がギャップを挟んで層状に重なっていることが分かります。曲線は周期的なので、図26-6のように    \[-\frac{\pi }{a}\leq k\leq \frac{\pi }{a}\] の範囲だけを描けば十分で、この形式は還元ゾーン形式と呼ばれ、必要最小限のスペースで表現できることからよく使われます。この場合は一番下の曲線が第1ブリルアンゾーンでその上が第2、さらに第3、第4の順となります。なお、図26-4のような形式を拡張ゾーン形式、図26-5のような形式を反復ゾーン形式ということがあります。

 1次元の周期ポテンシャルがある場合で、そのポテンシャルが小さく、電子がほとんど自由電子として振る舞う場合の、エネルギーは一般にバンド状になることが分かりました。ブリルアンゾーンと実際の結晶との関係をもう少しはっきりさせるためには、3次元の場合についても考えてみる必要があります。