科学・基礎/半導体物理学

4.半導体の熱電気特性

 半導体の最大の特徴は電気伝導特性にあるわけですが、そのほかにも特徴的な現象があります。その一つが熱電気現象です。

 熱と電気の関係で真っ先に頭に浮かぶのはジュールの法則でしょう。金属や半導体に電流を流すと熱が発生するという現象です。この現象は回路中の電気抵抗で消費されるエネルギーが熱(ジュール熱と言うことがあります)に変わるというものです。半導体デバイスを動作させるために電流を流すと無用なジュール熱が発生し、デバイスやその周囲の温度上昇を招き、ひいては故障の原因になるので嫌われます。積極的な応用はヒーターを除くとあまりありません。

 ジュールの法則以外に、熱電気現象については、ゼーベック効果、ペルチェ効果、トムソン効果という3つの効果が19世紀に発見されています。

(1)ゼーベック効果  図4-1のように2種類の導体1、2を接続し、接合点AとBの温度を \(\mathrm{d} T\) だけ変えると、導体中に電流が流れます。この現象は早くも 1822 年にゼーベック(T. Seebeck)によって発見されています。ゼーベックはこの効果は金属に比べて半導体の方が数百倍も大きいことも見出しています。

 電流が流れるということは2つの接合点の電位が異なるということで、これは一方の線を図のように切断してその両端の電位差 \(V_{12}\) を計ることによって確かめることができます。この \(V_{12}\) のことを熱起電力と言います。この熱起電力と温度差 \(\mathrm{d} T\) の間には(1)式のような関係があります。定数 \(\alpha_{12}\) を熱起電能(thermoelectric power)と呼びます。    \[\frac{\mathrm{d} V_{12}}{\mathrm{d} t}=\alpha_{12}\tag{1}\]

 半導体ではありませんが、2種類の金属線を使って熱起電力を測定することにより、温度を測定することができます。これを熱電対と言います。2つの接合点のうち、一方を一定温度、例えば氷水で 0 ℃に保ち、他の接合点を測定したい物に接触させます。温度と起電力の関係は予め計っておく必要がありますが、有名な組み合わせの熱電対については精密な数表が用意されています。現在ではこの数表(テーブル)を内蔵した電子温度計が使われています。

(2)ペルチェ効果  一方、2種類の導体をつないだ回路に電流 \(I\) を流すと、その大きさに比例して熱量 \(Q\) を発熱したり吸熱したりする現象が起きます(式(2))。この現象は 1834 年にペルチェ(J. C. Peltier,、ペルティエと書かれることもあります)によって発見されたので、ペルチェ効果と名付けられ、比例定数の \(\Pi_{12}\) はペルチェ係数と呼ばれます。    \[Q=\Pi_{12}I\tag{2}\]  発熱という点ではジュール熱と似ていますが、電気抵抗とは関係なく別の現象です。また電流の向きによっては吸熱も起きる点が特徴です。吸熱が起きるということは物を冷やすことができるということで、この効果を使ったペルチェ素子という冷却装置が知られています(半導体レーザ、50項参照)。ペルチェ素子の具体的構造などについては別途取り上げたいと思います。

(3)トムソン効果  さらにもう一つのトムソン効果は1つの導体が対象です。導体中に温度勾配 \(\mathrm{d}T/\mathrm{d}x\) があるとき、電流 \(I\) を流すと、発熱または吸熱はこの温度勾配の大きさと電流の積に比例するというものです(式(3))。比例定数 \(\lambda\) はトムソン係数と呼ばれます。1852 年にトムソン(W. Thomson)によって理論的に予想されました。    \[Q=\lambda\frac{\mathrm{d}T}{\mathrm{d}x}\tag{3}\]

 このトムソン効果によって、ゼーベック効果とペルチェ効果は密接な関係があることがわかっています。これによってゼーベック効果の大きい半導体ではペルチェ効果も大きいことが示されます。

 

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