科学・基礎/結晶光学
10.異方性結晶の光学特性

 前項では異方性媒質と光の相互作用について検討し、基本となる関係式であるフレネルの方程式を導きました。この式が何を表しているかを理解するため光の進行方法を特定した場合の特性を求めてみます。まず2つの形式のフレネルの法線方程式(前項(17)、(21)式)を(1)、(2)式として再掲します。

\[\begin{align} &(n_x^2 +n_y^2 +n_z^2 )(n_1^2 n_x^2 +n_2^2 n_y^2 +n_3^2 n_z^2 ) \\ &-\left [ n_1^2 (n_2^2 +n_3^2 )n_x^2 +n_2^2 (n_3^2 +n_1^2 )n_y^2 +n_3^2 (n_1^2 +n_2^2 )n_z^2 \right ] +n_1^2 n_2^2 n_3^2 =0\tag{1}\end{align}\]

\[(v_p^2 -v_y^2)(v_p^2 -v_z^2)e_{kx}^2 +(v_p^2 -v_z^2)(v_p^2 -v_x^2)e_{ky}^2 +(v_p^2 -v_x^2)(v_p^2 -v_y^2)e_{kz}^2 =0\tag{2}\]

 これらの式には電界または電束密度は消去されて含まれていませんので、偏光状態など電界成分に関する情報は得られません。そこで上の2式を導く前段階の式のうち、前項(16)式もつぎの(3)式として再掲しておきます。

\[\pmatrix{n_y^2 +n_z^2 -n_1^2 & -n_x n_y & -n_z n_x \cr -n_x n_y & n_z^2 +n_x^2 -n_2^2 & -n_y n_z \cr -n_z n_x & -n_y n_z & n_x^2 +n_y^2 -n_3^2}\pmatrix{E_x \cr E_y \cr E_z } =0\tag{3}\]

xy面内を進む光

 特別な場合としてまずxy面内を進行する光を考えます。この場合、\(n_z =0\) ですから(1)式は

\[(n_x^2 +n_y^2 -n_3^2 )(n_1^2 n_x^2 +n_2^2 n_y^2 -n_1^2 n_2^2 )=0\]

となります。したがって

\[n_x^2 +n_y^2 -n_3^2 =0\tag{4}\]

または

\[\frac{n_x^2}{n_2^2}+\frac{n_y^2}{n_1^2} =1\tag{5}\]

が成り立ちます。

 (4)式からxy面内を進む光については、その方向に関わらず屈折率は \(n=n_3 \) であることがわかります。

 一方、(5)式は \(n_x\) と \(n_y\) に関する楕円の方程式です。この式が成り立つ場合は、屈折率は光の進行方向に依存します。x方向に進む光に対しては \(n=n_2 \)、y方向に進む光に対しては \(n=n_1\) となります。

 つぎに(2)式を適用することを考えると、この場合、つぎの2式が成り立ちます。

\[e_{kz}=0~~~~~e_{kx}^2 +e_{ky}^2 =1\]

 これを(2)式に適用すると

\[(v_p^2 -v_z^2 )(v_p^2-v_y^2 e_{kx}^2 -v_x^2 e_{ky}^2 )=0\]

となります。この方程式の \(v_p\) についての2つの解を \(v_p(1)\)、\(v_p(2)\) とすると

\[\begin{align} v_p (1) &= v_z \\ v_p (2) &= \sqrt{v_y^2 e_{ky}^2 +v_x^2 e_{ky}^2}\end{align}\]

が得られます。\(\boldsymbol{e}_{k}\) とx軸とがなす角を \(\phi\) とすると

\[e_{kx}=|\boldsymbol{e}_k |\cos\phi~~~~e_{ky}=|\boldsymbol{e}_k |\sin\phi\]

ですから

\[v_p (2)=\sqrt{v_y^2 \cos^2 \phi +v_x^2 \sin^2 \phi}\]

となります。また対応する2つの屈折率 \(n_p(1) \)、\(n_p(2) \) は

\[\begin{align}n_p (1) &=n_3 \\ n_p (2) &= \frac{n_1 n_2}{\sqrt{n_y^2 \cos^2\phi +n_z^2 \sin^2\phi}}\end{align}\]

となります。これらをxy平面上に図示すると図10-1のようになります。(a)は法線速度、(b)は屈折率を示します。なお、両方の図に光の波面の進行方向を示すベクトル \(\boldsymbol{e}_k\) を赤色の矢印で示しました(以下の図でも同じです)。なお、ここで \(n_1 \lt n_2 \lt n_3 \) 、したがって \(v_x \gt v_y \gt v_z \) となるように座標を選んでいるとします。

 また電界については(3)式に \(n_z =0\) を代入すると、\(E_x \) と \(E_y \) は 0 以外の解を持ち得ないことがわかり、\(E_z \) だけが 有限の値をもちます。これはこの光がz方向に直線偏光していることを示します。

xz面内を進む光

 この場合は上記の場合からx→z、z→y、y→x と変換すればよく、 \(n_y =0\) です。(1)式から

\[n_z^2 +n_x^2 -n_2^2 =0\]

または

\[\frac{n_z^2}{n_1^2}+\frac{n_x^2}{n_3^2} =1\]

が成り立ちます。また(2)式から

\[\begin{align} v_p (1) &=v_x \\ v_p (2) &=\sqrt{v_z^2 \cos^2 \phi +v_y^2 \sin^2 \phi}\end {align}\]

となります。なお \(\phi\) はこの場合、z軸からの角度となります。また対応する屈折率 \(n_p \) は

\[\begin{align} n_p (1) &= n_1 \\ n_p (2) &= \frac{n_2 n_3}{\sqrt{n_z^2 \cos^2\phi +n_x^2 \sin^2\phi}} \end{align}\]

となります。これらをxz平面上に図示すると図10-2のようになります。この場合、\(v_p (1)\) と \(v_p (2)\) の曲線、また \(n_p (1)\) と \(n_p (2)\) の曲線に交点が存在する特徴があります。交点は2つの方向に対して対称に生じます。このような特徴をもつ結晶を、2軸性結晶と呼んでいます。

 偏光はy方向になります。

yz面内を進む光

 この場合は \(n_x =0\) です。(1)式から

\[n_y^2 +n_z^2 -n_1^2 =0\]

または

\[\frac{n_y^2}{n_2^2}+\frac{n_z^2}{n_1^2} =1\]

が成り立ちます。また(2)式から位相速度は

\[\begin{align} v_p (1) &= v_x \\ v_p (2) &=\sqrt{v_z^2 \cos^2 \phi +v_y^2 \sin^2 \phi}\end{align}\]

となります。また対応する屈折率 \(n_p \) は

\[\begin{align} n_p (1) &= n_1 \\ n_p (2) &= \frac{n_2n_3}{\sqrt{n_z^2\cos^2\phi+n_x^2\sin^2\phi}}\end{align}\]

となります。これらをyz平面上に図示すると図10-3のようになります。

 偏光はx方向になります。

Z軸方向に進む光

 この場合、

\[n_x =n_y =0\]

ですから(1)式は

\[n_z^4 n_2^2 -n_z^2 n_3^2 \left (n_1^2 +n_2^2 \right ) +n_1^2 n_2^2 n_3^2 =0 \]

となり、

\[n_3^2 \left (n_z^2 -n_1^2 \right ) \left (n_z^2 -n_2^2 \right ) = 0\]

となります。したがって \(n_z \) は \(n_1 \) または \(n_2 \) のいずれかの値をとることがわかります。

 偏光の状態、すなわち電界の様子については、(3)式に \(n=n_1 \)、ベクトル \(\boldsymbol{n}\) について、\(\boldsymbol{n}=(0,0,n_1 )\) を代入すると

\[E_x =E_y =0\]

が得られます。したがってz方向に進行し、屈折率 \(n_1\) を感じている光、すなわち伝搬速度が \(c/n_1 \) の光はz方向に偏光していることになります。同様に屈折率が \(n_2 \) (伝搬速度が \(c/n_2 \) )の波はy方向に偏光していることになります。z方向に進行する光はこの2種類の偏光だけに限定され、それ以外の偏光は存在しません。

 フレネルの法線方程式が何を示しているのかを見るために、特殊な方向に進む光について考えてきましたが、これらから一般の光の進行方向に対する屈折率がどのような変化を示すかはおおよそ推測できそうです。図10-4がそれを示す図です。この図では、原点から光の進行方向に引いた直線とこの曲面の交点の座標が屈折率のxyz成分を示し、原点から交点までの距離が屈折率の大きさに相当します。なお、図では \(n_1 \lt n_2 \lt n_3 \) である場合を示しています。

 図のように屈折率を表す曲面は2つあり、特別な方向を除いて光の進行方向に対して2つの屈折率が存在します。これが複屈折と呼ばれる現象に対応します。なお、\(n_x -n_z\)平面上に屈折率曲線の交点が存在します。この点と原点を結ぶ直線(赤色に破線)が光学軸に相当します。