電子デバイス/半導体メモリ

1.はじめに

 情報を扱う電子機器では情報源として情報を蓄え保存しておく機能が必ず必要です。これが情報の記憶(メモリ)です。情報の具体例としては文字や画像、音声などがあります。これらはそのままではアナログ情報ですが、デジタル方式ではこれら1つ1つの情報をすべて1と0の数字の並びで表します。

 これらの情報を記憶しておくには記憶場所が必要になります。これが記憶媒体とか記憶素子(メモリデバイス)ですが、情報を記憶する原理は多彩で、いろいろ考えられてきました。

 記憶装置の基本的な機能はこの記憶媒体への情報の書き込みと記憶媒体からの情報の読み出しです。保存したい情報を記憶媒体に記録し保持させる動作が書き込みです。また保存されている情報を必要に応じて取り出し復元する動作が読み出しです。記憶媒体によって情報の書き込みと読み出しの方法が異なります。

 具体的な例で説明します。古くから知られよく利用されてきたのが磁気を利用した記憶媒体です。磁気テープ、磁気ディスクなどがこれです。録音用、録画用のテープからコンピュータ用のテープやディスクなどがこの例です。

 磁気を利用した記憶は磁性体表面がN極かS極かに磁化されることを利用します。非常に狭い範囲だけを磁化できるので、磁性体の表面を小さく区切って多数の並べた磁区を作り、それぞれの磁区を磁化させて情報を記憶することができます。書き込みと読み出しは微小な磁気ヘッドを磁性体表面に近づけて行います。ただ多数の情報を書き込み、読み出すためには磁性体表面の異なった位置に磁気ヘッドを近づける必要があり、磁性体と磁気ヘッドの相対位置を変える必要があります。

 テープの場合はヘッドの位置は固定で、テープを巻き取るようにして送り、位置を変えます。ディスクの場合はディスクを回転させるとともにヘッドも移動させ、両方の組み合わせで情報を書き込み、読み取る位置を変えています。

 光を利用するCDとかDVDなどの光ディスクはディスク表面の反射率や透過率などを変えて情報を記憶させます。CDなどではディスク表面の反射膜に微小な穴を開け、穴の有無で反射率を変えて1か0かを記憶します。書き込みは強いレーザ光でディスク表面に小さな穴を作ります。読み出しはレーザ光を照射し、反射光の強弱を検出して行います。

 穴を開ける方法では一度開けてしまうと元に戻せませんから、記憶情報を書き換えることができない読み出し専用(リード・オンリー)の記憶媒体となります。情報の書き換えが可能な光ディスクもあり、これらは表面の反射膜の性質を繰り返し変えられる材料が使われます。光磁気ディスクという光と磁気を組み合わせたものもあります。

 光ディスクの場合もディスクを回転させるとともにヘッドを移動させて多数の情報を読み書きしています。

 文字にしても画像にしても音楽にしても多数の情報の集まりからなり、かつ1つ1つの情報が決まった順序をもつことで意味をなします。このため1つ1つの情報は記憶媒体上に決まった規則で配置されるように書き込む必要があります。そうなっていれば読み出すときにはその配置の規則によって情報を取り出し、元の情報を復元できることができます。

 テープの場合は記憶媒体を1方向にしか動かせませんからテープの端から順に情報を記憶させ、元に戻して同じように端から順に読み出すことになります。これに対して円形のディスクの場合は半径の異なる多数の円周上に情報が配置されるので、書き込み位置の規則に従ってヘッドを移動させ、情報の読み出しを行う必要があります。

 このような情報を記憶媒体上の異なる位置に配列するために磁気や光を使う場合にはどうしても記憶媒体自身を動かす必要がありました。磁気テープの場合にはテープを巻き取って流す必要があり、磁気ディスクやCDなどの光ディスクでは円板状のディスクを回転させ、かつヘッドを移動させる必要がありました。

 これに対してこれから説明する半導体メモリの場合はトランジスタのスイッチのオンオフによって記憶媒体であるメモリセルを選択します。多数のトランジスタを配列し、各トランジシタを記憶したい情報にしたがってオン状態かオフ状態で設定することで情報が各メモリセルに書き込まれます。その後、必要な位置を各トランジスタのスイッチによって選択し、それぞれ決められた方法によって記憶された情報は読み出せます。各トランジスタに配線をしておけば、スイッチで電気信号の行き先をコントロールできるので、可動部分なしで異なる位置にあるトランジスタに情報を書き込んだり読み出したりできます。

 ただ普通のトランジシタのオンオフは電源が接続されている場合にだけできる動作であって、電源が切れてしまうと、コントロール不能になります。メモリセルがトランジスタの状態に関係なく情報を保存できない場合は電源が切れると情報は保存できません。磁気の場合は電源の接続に関係なく記憶状態は保持されますが、半導体メモリは常時電源を接続しておかないと情報が記憶できないことがあります。

 この難点もトランジスタに工夫を加えることで解決され、電源を切り離しても記憶が保持される半導体メモリが広く使われるようになっています。

 以下では記憶媒体の構造と集積回路の両面から半導体メモリについて紹介していきます。

 磁気メモリはすべて可動部をもっているように書きましたが、これは正しくありません。可動部のない磁気メモリがかつてありました。磁気コアメモリというのがそれです。半導体メモリが登場する直前にコンピュータの主記憶装置として使われていたものです。ビーズを糸で縫い付けるように小さなリング状の磁性体(コア)に縦横にワイヤを通して格子状に固定したものでした。ワイヤを選択することで各コアに情報を読み書きでき、記憶媒体を動かす必要はありませんでしたが、半導体メモリの登場により姿を消しました。