光デバイス/発光ダイオード

22.材料選択範囲の拡大手段(その3)

 前項で、間接遷移型半導体であるGaPを発光させる手段としてアイソエレクトロニック・トラップを紹介しましたが、つぎにさらに別の手段を取り上げます。この手段は超格子の性質を利用するもので、1990年代になってから提案されたゾーン・フォールディング効果と呼ばれるものです。

 この技術の説明が載っている文献(1)がありますので、これを参考にして説明します。

 前項で示したようにGaPの伝導帯のエネルギーはΓ点よりX点の方が低くなっているので、GaPは間接遷移型となります(前項の図21-1参照)。このX点というのは原点Γから<100>方向の境界で、運動量kの絶対値は2π/aです。ただしaは格子定数です。この様子を図22-1に再度示します。

 格子すなわち結晶では原子が規則的に並んでいて、例えばGaPのような化合物の場合ならGa原子もP原子も規則的に並んでいて、さらにGaとPの並び方も規則的です。簡単に言えば、隣合うGaとGaの間の距離はどこでも一定で、これが格子定数aになります。

 一方、超格子は異なる物質が規則的に並んだものを言います。例えばGaPとAlPの薄い膜を交互に積層したものは一次元の超格子です。図22-2はGaPとAlPを単層ずつ積層した例が描かれていますが、これも超格子の特殊な一例です。この例を考えると、GaとGaの距離はGaPの場合の約2倍長くなっています。

 図のようにこの積層方向が<100>方向だとすると、ブリルアンゾーンの境界は格子定数が2aになったとみなせるので、π/aとなり、GaP結晶の1/2になります。このときπ/a~2π/aの部分のバンドはどうなってしまうかというと、図22-1のようにゾーンの境界から内側に折り返されます。この結果、赤線で示すようにX点にあったエネルギーの最小な点はΓ点に来ることになります。これはGaPが直接遷移型になったことを意味します。

 なお、AlPは図22-1に示したようにGaPと似たバンド構造を持ち、間接遷移型ですが、Γ点、X点のバンドギャップエネルギーはGaPよりかなり大きくなっています。このため、電子と正孔の再結合はGaPのバンドを介して起こり、AlPは発光には関与しないと考えてよいことになります。

 GaPとAlPは単層である必要はなく、数原子層ずつ積層してもよく、その場合は折り返し点はさらに短くなります。

 この効果のことをゾーン・フォールディング(zone-folding)効果と呼んでいます。foldとは折り返すとか折り畳むといった意味で、超格子によってブリルアンゾーンが折り畳まれることを意味しています。

 間接遷移型であるシリコンを発光させるためにもこの効果は例えばSiとGeの超格子を用いて研究されています。シリコンの発光素子ができるとその効果は大きいので、いろいろな手段が研究されていますが、ここでは立ち入らないことにします。

 ゾーン・フォールディングはバンド理論を直接応用した興味深い話ですが、実用的にはまだ成功していないようです。デバイスを作るのに十分なほどの面積に単原子層レベルで原子を乱れなく並べるのはそう容易ではないためと思われます。

      

特開平05-82837号