光デバイス/発光ダイオード

16.発光層に適した材料とは

  LEDの発光波長(発光色)は発光層の材料のバンドギャップエネルギーによって決まります。ところが希望する発光色に相当するバンドギャップエネルギーをもつ材料を選びそれを発光層とするLEDを作ったとしても、うまく発光してくれるとは限りません。

 これが発光層として使える材料がかなり限定される理由の一つです。なぜそんなことになるのでしょうか。困ったことにこれを直感的に説明するのはほとんど不可能です。理論的にはもちろん説明がされているのですが、簡単な計算などで結果を示すこともできません。

 ほとんど似た結晶構造をもった半導体でも光るものと光らないものがあります。具体的な例を挙げます。LEDとしてよく使われるⅢ-V族化合物半導体のGaAs(砒化ガリウム、ガリウム砒素と呼ぶことが多い)はもちろん発光する材料です。ところがⅢ族元素のGaを、周期律表の1段上のAlに変えたAlAs(アルミニウム砒素)はほとんど発光しません。もちろん結晶構造はどちらも同じです。それにもかかわらず一方は光り、一方は光らないのです。

 GaAsに含まれるGa元素の一部をAlに置き換え、混晶 AlGa1-xAs (x=0~1)を作ることができ、これが発光素子に実用的に使われているのはご承知の通りです。

 GaAsのバンドギャップエネルギーは室温で1.42eVです。波長に直すと873nmの赤外光に相当します。またAlAsのバンドギャップエネルギーは2.16eVでこれに相当する波長は574nmで、これは黄色に相当します。したがってAlGaAsのAl組成xを0から1までの間で選んでLEDを作れば、発光波長は873nmの赤外光から可視光の黄色までカバーできると予想できます。

 ところがAlGaAsが強く光る範囲は大体xが0.3より小さい範囲、つまりAl成分が少ない組成の範囲に限られます。組成とバンドギャップエネルギーの関係は大雑把には比例計算して求められます。X=0.3ではバンドギャップエネルギーは1.64eV程度となり、波長にして765nmとなります。これは赤外域の波長に当たります。つまりAlGaAsではほとんど赤外域の発光しかできないことになります。

 さて、LEDの発光は半導体中の電子と正孔が結合し、そのとき失うエネルギーが光になって放出されると説明しました。ところが半導体結晶中に動ける電子と正孔がたくさんいるだけで発光できるわけではなく、うまく条件が整っている場合に限られます。

 電子がうまく正孔と結合して光を出す種類の半導体を直接遷移型と呼びます。GaAsは直接遷移型半導体です。一方、光を出しにくい種類を間接遷移型と呼びます。AlAsは間接遷移型半導体です。「遷移」とは難しい言葉ですが、移り変わるという意味で、電子がエネルギーを変化させて状態を変えるということを意味しています。「直接」、「間接」とはまっすぐに状態を変えるとき発光し、回り道をするときは発光しにくいといったイメージです。

 最初に触れたように、以上のようなことがなぜ起こるのか、直接遷移型と間接遷移型の物質は何がちがうのかを言葉で直感的にわかるように説明するのは難しいと思います。理論的にもかなり立ち入って正確なバンド構造の計算を行わないとその物質が直接遷移型か間接遷移型かについて結論を得ることはできません。ここでは材料の性質の違いとして受け入れていただくしかありませんが、次項でもう少し説明します。

 この項のタイトルの発光ダイオードの発光層に適した材料は何かという問いに対する答えは直接遷移型の半導体を選ぶということになります。これまではそうはいっても適当な材料がないために、間接遷移型の半導体を何とか使うということも行われてきました。これについては後の項で触れますが、今後はそういうこともなくなっていくと思われます