光デバイス/発光ダイオード

12.反射構造

 LEDの発光層で発生した光をできるだけ素子の外部に取り出すために、前項では電極を遮られるのをできるだけ避ける手段を紹介しましたが、今回はさらに別の手段を考えます。

 LEDの発光層から出た光は特定の方向ではなく四方八方に向かって放射される性質をもっています。ところが普通は特定の目標を照らすために、例えば特定の方向にいる人の眼に入るように、LEDを使います。こういう使い方ではLEDが発する光のうち、特定の方向の光だけを利用することになり、利用する方向以外へ進む光は無駄になります。

 またLED素子は裸ではなくパッケージに収容して使うのが普通です。この場合、LED素子を不透明な台座に固定する場合が多くなります。LEDは四方八方に光を出してもその半分近くがパッケージによって遮られ無駄になってしまうこともあり得ます。

 このような無駄を減らすために考えられる手段は反対方向に進む光を反射して折り返すことです。基板の上に作られた発光層の上方、つまり基板とは反対の方向に光を取り出そうとする場合には発光層と基板の間に反射層を入れて、発光層から基板側に進む光を上方に反射すれば無駄になる光を減らすことができます。反射層には反射率の高い金属を使うのが簡単でよいのですが、半導体結晶層の間に金属層を入れるのは簡単ではありません。金属層の上に半導体結晶層を成長するのは難しいからです。

 この困難を避けるため、光を素子の裏面から取り出すことにして素子表面に金属反射層を着けるという方法が考えられます。通常、素子表面には金属電極を設けるので、この金属電極を反射層として使うことができれば一石二鳥です。もちろん裏面側にある基板は光を通す透明な材料にしなければなりません。

 前にLED素子の基本構造のところ(6項)で紹介した横型の構造であれば電極は基板と反対側の素子表面だけに設けられていますから、このタイプで光を基板側から取り出せば図12-1に示すように、電極によって光が遮られるという問題も解決されます(1)

 このような構造にも問題がないわけではありません。金属電極を反射層として利用する場合には、反射率の高い金属を使いたいのは言うまでもありません。可視光に対して反射率が高い金属としては銀やアルミニウムなどが知られていますが、これらは電極としては必ずしも適していません。その理由は反射率の高い金属は半導体に対してオーミック電極になるとは限らないからです。

 この問題を解決するためには、金属を多層にして各層に役割を分担させる方法が考えられます。オーミック電極になる金属層は半導体表面に非常に薄く作り、その上に反射層を反射率の高い金属で作るような工夫がされます。オーミック電極層は十分薄くして光を透過させ、反射率の高い反射層で光を反射します。上記特許ではさらにこの2層の金属層の間にバリヤー層と呼ばれる金属層が挿入されています。異種の金属は互いに拡散したり反応したりして折角異種の金属層を積層したのに期待した効果が得られないことがあります。このバリヤー層はそのようなことを防ぐための層で、この例ではオーミック電極層の金属が反射層内へ拡散するのを防ぐために挿入されています。

 またGaN系のLEDでは基板を透明なサファイアにすることが多いので、基板の選択にあまり問題はありませんが、出射光を透過しない基板を使う場合には、基板に穴を開けるなどの光の通り道を確保する必要があります。

 最初に戻って、基板と発光層の間に反射層を入れれば、縦型構造のような場合でも反射光を素子の上側(基板と反対側)から出射させることができます。その場合は半導体結晶層を支障なく成長させるため、反射層も半導体結晶層にする必要があります。そこで使われるのが半導体多層膜を使ったブラッグ反射鏡です。これは通常、それぞれ発光する光の波長の1/4に相当する厚さをもった高屈折率層と低屈折率層を交互に積層させて作ります。

 図12-2はこの場合のLEDの構造例を示しています。ダブルヘテロ構造のLEDで発光層の下側の半導体層と基板の間に多層膜反射層が挿入されています。発光層から出て基板側に向かう光は反射層で反射され、素子の上方から出射されます。

 このような構造のAlGaAs系の発光ダイオードの場合(2)、反射層も同じ材料系で作ることができます。この系は何度も繰り返しになりますが、格子定数が組成によってほとんど変わらないので問題なく結晶成長が行えます。しかしGaN系など他の材料系では反射層の材料に適当なものが選べないという問題が生じます。したがってGaN系では図12-1のような構造が適していると言えます。

(1)例えば特開2001-210868号

(2)特開昭60-77473号