光デバイス/半導体レーザ

7.光増幅器

 レーザは誘導放出による光増幅が起こってレーザ光を発するということを説明してきましたが、では光はどれくらい増幅されているのでしょうか。ルビーレーザの場合、誤解してはいけないのは、フラッシュランプで励起しているわけですが、このフラッシュランプを発光させるのに必要なエネルギーは増幅される対象ではないということです。

 トランジスタを使った電気信号の増幅などでも同じですが、電源から投入されたパワーがさらに大きくなることは決してなく、この投入されたパワーを利用して入力された電気信号が増幅されて出力されているに過ぎないのです。全体のエネルギーは保存されるのが自然法則の大前提ですから、電源から入ったエネルギーが信号に乗り移って信号が大きくなっているだけです。信号に利用する価値があるわけですから、電源から入るエネルギーは消費されても、信号が大きくなってくれれば意味があるわけです。

 レーザの場合も同様で、決まった波長の位相のそろった光に利用価値があるので、それを大きくするために、外からエネルギーを加え、それが消費されてもそれはよしとしなければなりません。ルビーレーザでは、外から加えるエネルギーがフラッシュランプの光になります。

 ルビーレーザの場合、強力なフラッシュランプにより大量の電子がエネルギーの高い状態に励起されます(ポンプされると言うこともあります)。このエネルギーの高い電子のどれか一つでも低いエネルギーに落ち、1個の光子が発生すれば、それを契機に誘導放出が起き、光が増幅を繰り返して強くなるわけです。ですから極端に言えば、最初に発生した1個の光子が何個になるかが増幅の程度ということになります。

 でもこれは分かりにくいですね。もっと直感的に確かに光が増幅されていることが感じられるデバイスがあります。それが光増幅器です。半導体レーザを使った光増幅器もありますが、いま光ファイバ通信の世界でもっともよく使われているのが、光ファイバ増幅器です。これについて少しだけ説明をしておきましょう。

 光ファイバ増幅器の原型はイギリスのR.J.Mearsらによって1985年に提案されています(1)。実際に広く使われるようになったのは1990年代と比較的最近で、実用化には随分時間がかかりました。光ファイバというのは半導体などに比べて実験室で簡単に試作するのが難しく、実用化に向けて特殊な成分を含む光ファイバをいろいろ試す研究がなかなか進まなかったというのが原因と思われます。

 長距離光通信で使われている光の波長帯は1.55μm帯です。この波長の光を増幅するのに使われているのはエルビウム(Er)という元素です。誘導放出の原理は図7-1に示すようにルビーレーザの発光の源になっているCrとよく似ています。一番低いエネルギーE1の状態にある電子に波長980nmの光を当ててE3に励起します。この電子はすぐにE2に落ち、このE2からE1に落ちるとき誘導放出により光を出します。E2とE1はそれぞれ1つのエネルギーではなくいくつかのエネルギーに分かれていますが、E2とE1の差はおおむね1.55μm前後になっているので、この波長の光が増幅できます。

 エルビウムは石英ガラスで作られる光ファイバのコアの中にドープされます。光ファイバが半導体や誘電体の結晶と違うのは、非常に長いのに損失が少ないものが作れる点です。このため単位長さ当たりではそれほど増幅ができなくても長さで稼ぐことができます。実用的には10mくらいの長さが使われているようです。

 光ファイバ増幅器の構成は図7-2のようなものになります。光信号は左側から光ファイバを伝搬してきます。この光ファイバにエルビウムがドープされた光増幅用ファイバが接続されています。一方、励起用の光を発光する半導体レーザが用意され、この光は光ファイバを伝わり、光カプラで光増幅用光ファイバに合流されます。ここに光信号が入ってくると、図7-1のような状態が実現されて誘導放出が起きます。光増幅用ファイバが続く限り光は増殖を続け、最終的に入ってきたときより数100倍以上も強くなって右側の光ファイバへ出て行きます。

 励起用半導体レーザからエネルギーをもらって光信号がまさに増幅されるわけです。このような光増幅器がないと、光信号が弱まった場合には図7-3に示すように受光素子を使って光信号を一旦電気信号に変え、その電気信号を増幅して改めて半導体レーザなどを駆動して強い光にし、その光をもう一度光ファイバに入れて次へ送るという中継操作をしなければなりません。光増幅器によれば、光信号を電気信号に変え、また光に戻すというやっかいな手間が省けるという大きな利点があります。

(1)特表昭63-502067号

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