電子デバイス/半導体集積回路

6.IGFETを用いたスイッチング回路

 IGFETに負荷抵抗をつないだ図6-1に示す回路はIGFETの章でも示していますが、その動作を説明しましょう。IGFETのソース-ドレイン間電流とドレイン電圧の関係も説明したことがありますが、図6-1の右側のグラフのようになります。この図の横軸がドレイン電圧Vds(ドレイン電極とソース電極(=グランド)間の電圧のことです)、縦軸がソース-ドレイン間電流Idsです。特性はゲート電圧Vを4種類変えた場合を示しています。

 図の電圧と電流の値は仮想的なものですが、実際のIGFETからそれほどかけ離れてはいないはずです。例えばV=3Vのときの特性を見て下さい。Vdsが0から2V位までの間ではVdsが増加すると、それに比例してIdsも増加します。しかしVdsが2Vを越えると、Idsは増えなくなり、ほぼ一定となります。この例ではVが3Vのとき、Idsが一定となる電流値は約60μAです。Vが小さくなるとこの電流値も小さくなり、V=1.5Vでは10μA程度となります。

 普通の物質に電極を付けて電圧をかけた場合は、オームの法則に従って電圧に比例した電流が流れるだけで、電流が一定になったりすることはありません。図のような特性はIGFETのソース-ドレイン間に特徴的なものと言えます。

 それではソース-ドレイン間に負荷抵抗Rをつなぐとどのようなことが起こるでしょうか。ドレイン電極にR=100kΩ(キロオーム)の抵抗をつなぎ、その先をV=5Vの電源につないだとしましょう。V=1.5Vとし、 Ids=10μAの電流をソース-ドレイン間に流すと、負荷抵抗Rの両端には1V(=0.00001A×100000Ω)の電圧が発生します。この電圧とドレイン電圧Vdsを足したものが電源電圧V=5Vにならなければいけないので、Vds=4Vとなります。

 つぎにVを2Vに変えてみます。Idsは20μAに増えます。負荷抵抗Rの両端に発生する電圧は2Vになりますので、Vdsは3Vに減少することになります。これからわかるようにV=5VでR=100kΩとした場合、図のような直線を引くと、この線とIds-Vds特性の交わる点がそのVのときのVdsを示していることが分かります。つまり電源電圧V=5V、負荷抵抗R=100kΩのときはこの直線から外れたところでIGFETが動作することはありません。

 この直線は横軸上のV=5V(電源電圧)の点と縦軸上のIds=5V/100kΩ=50μAの点を結んだ直線で、負荷直線といいます。またV=1VのときのVds=4Vの点、V=3VのときのVds=3Vの点などをそれぞれ動作点と言います。この図からゲート電圧に対するドレイン電圧の特性がわかることになります。例えばゲート電圧を3Vから0Vに下げると図からドレイン電圧は1Vから5Vに上昇することがわかります。負荷抵抗の抵抗値を変えると負荷直線の傾きが変わるので、この電圧も変わります。

 この特性を利用すればゲート電圧を切り換えることによりドレイン電流をオンオフするスイッチができます。ゲート電圧を下げたとき、ドレイン電圧は上がり、逆にゲート電圧を上げるとドレイン電圧は下がることがわかります。つまり入力電圧の変化に対して出力電圧は逆方向に変化します。入力の変化を逆転して出力する回路であることがわかります。これはNOT回路として使うことができます。入力電圧の極性を反転して出力するという意味でこの回路をインバータと呼ぶ場合もあります。

 さて以上のようにIGFETはスイッチとして動作しますから、これを図6-2のように直列につなげば、AND回路になり、図6-3のように並列につなげば、OR回路が実現できます。ただし上に述べたように1個1個のスイッチはNOT回路ですので、図6-2の回路の真理値表はつぎのようにになります。これをNAND回路と言います。

 A  B  X
 0  0  1
 1  0  1
 0  1  1
 1  1  0
    

 また図6-3の回路の真理値表はつぎのようになります。

 A  B  X
 0  0  1
 1  0  0
 0  1  0
 1  1  0

これをNOR回路と言います。これらをAND回路、OR回路にするには出力にNOT回路を付け加えます。