科学・基礎/半導体デバイス物理

16.容量-電圧特性(その1)

 前項で金属-絶縁体-半導体構造の半導体表面の電荷 \(Q_{s}\) と \(\psi_{s}\) の関係を求めました。この表面の電荷の状態が実際にどうなっているかを知るにはどうしたらよいでしょうか。

 その有力な手段として一般的に用いられているのが、「絶縁ゲート電界効果トランジスタ」の4項でも触れた静電容量を測定する方法です。誘電体を金属電極で挟んだ通常のコンデンサでは電極にかける電圧を変えても静電容量は変わりませんが、金属-絶縁体-半導体構造の容量は印加電圧によって変化します。その理由はこの容量が半導体の空乏層の容量を含んでいるからです。空乏層の幅は印加電圧によって変化しますから、その容量も変化します。したがって容量の値を測定すると空乏層の状態がわかるので、そのときの半導体の表面の状態がわかることになります。

 コンデンサの電極間に電圧 \(V\) をかけたとき、電極に電荷 \(Q\) が溜まったとすると、このコンデンサの静電容量 \(C\) は \[Q=CV\] と表されますが、電圧の変化に対する電荷の変化を考えれば、\(C\) は \[C=\left | \frac{\mathrm{d} Q}{\mathrm{d} V} \right |\] と表されます。半導体の表面層の容量 \(C_{D}\) は前項の \(Q_{s}\) と \(\psi_{s}\) を用いて \[C_{D}=\left | \frac{\mathrm{d} Q_{s}}{\mathrm{d} \psi _{s}}\right |\] と表されます。前項の \(Q_{s}\) の式を \(\psi_{s}\) で微分すると \[\begin{align} C_{D} &= e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2kT} \right )^{1/2} \\ &\times \left | \frac{ \left ( p_{0}/n_{0} \right ) \left ( 1-\mathrm{e}^{-e\psi _{s}/kT} \right )+\mathrm{e}^{e\psi _{s}/kT}-1}{\left [ \left ( p_{0}/n_{0} \right )\left ( \mathrm{e}^{-e\psi _{s}/kT}+e\psi _{s}/kT-1 \right )+\left ( \mathrm{e}^{e\psi_{s} /kT}-e\psi _{s}/kT-1 \right ) \right ]^{1/2}}\right |\tag{1}\end{align}\]が得られます。

 金属-絶縁体-半導体構造全体の容量 \(C\) はこの \(C_{D}\) と絶縁体の容量 \(C_{0}\) の直列容量となり、測定ではこの値が得られます。 \[C=\frac{C_{0}C_{D}}{C_{0}+C_{D}}\tag{2}\]

 蓄積状態では \(\psi_{s}\gt 0\) ですから、\(Q_{s}\) のときと同じ近似を用いると(1)式は \[C_{D}=e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2kT} \right )^{1/2}\exp \left ( \frac{e\psi _{s}}{2kT} \right )\] となります。この \(C_{D}\) は \(C_{0}\) よりずっと大きくなります。その場合、(2)式の分母の \(C_{0}\) は無視できますから、直列容量 \(C\) はほとんど \(C_{0}\) に一致するようになります。蓄積状態では絶縁体と半導体の界面に電子が蓄積され、絶縁体を電極で挟んだ状態とほとんど同じ状態とみなせるようになるからです。

 \(\psi_{s}=0\) のフラットバンド状態では、(1)式は分子も分母も 0 になってしまい、このままでは求められないので極限値を求める必要があります。まず \(p_{0}/n_{0}\) は小さいので分子分母でこれがかかっている項を無視します。すると \[C_{D}\simeq e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2kT} \right )^{1/2}\frac{ \left | \mathrm{e}^{e\psi _{s}/kT}-1 \right |} {\left [ \mathrm{e}^{e\psi _{s}/kT}-e\psi _{s}/kT-1 \right ]^{1/2}}\] となります。ここで指数関数の項を \[\mathrm{e}^{x}\simeq 1+x+\frac{x^{2}}{2}\] のように級数展開し、整理すると \[\begin{align}C_{D} &= e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2kT} \right )^{1/2}\frac{\frac{e\psi _{s}}{kT}+\frac{1}{2} \left ( \frac{e\psi _{s}}{kT} \right )^{2}}{\left [ \frac{1}{2} \left ( \frac{e\psi _{s}}{kT} \right )^{2} \right ]^{1/2}} \\ &=e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2kT} \right )^{1/2}\sqrt{2}\left ( 1+\frac{e\psi _{s}}{2kT} \right )\end{align}\] となります。ここで \(\psi_{s}\) を0に近づけると、フラットバンドの容量 \(C_{D,flat~band}\) は \[C_{D,flat~band}=e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{kT} \right )^{1/2}\] となることがわかります。

 空乏状態では \[C_{D}=\left ( \frac{en_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2} \right )^{1/2}\sqrt{\left | \psi _{s} \right |}\] となり、\(C_{D}\) は \(C_{0}\) より小さくなります。したがって \(C_{D}\) そのものがほぼ全体容量 \(C\) として観測されることになります。空乏層が広がるほど容量は減少しますから、電圧の増加によって容量が減少するのが観測されます。

 反転状態での \(C_{D}\) は \[C_{D}=e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2kT} \right )^{1/2}\frac{p_{0}}{n_{0}}\exp \left ( -\frac{e\psi _{s}}{2kT} \right )\] となり、\(C_{D}\) は再び \(C_{0}\) より大きくなりますから、全体容量 \(C\) は \(C_{0}\) に近づきます。これも反転状態では少数キャリアの正孔が絶縁体-半導体界面に蓄積してくるので、キャリアが違うだけで蓄積状態と同じように絶縁体が電極で挟まれた状態となると理解できます。

 以上の結果は \(C\) の \(\psi_{s}\) 依存性を示していますが、実際に測定できるのは \(C\) の外部電圧 V 依存性です。この外部電圧は \(\psi_{s}\) と絶縁体層にかかる電圧 \(V_{0}\) の和です。 \[V=V_{0}+\psi _{s}\] この \(V_{0}\) は絶縁体層の容量 \(C_{0}\) と金属電極の電荷 \(Q_{m}\) を用いて \[V_{0}=\frac{Q_{m}}{C_{0}}\] と表されます。この \(Q_{m}\) は電荷の中性条件から \[Q_{m}=-Q_{s}\] が成り立っていなければなりません。したがって \(V\) は \[V=-\frac{Q_{s}\left ( \psi _{s} \right )}{C_{0}}+\psi _{s}\tag{2}\] で与えられます。素子に電圧 \(V\) をかけると(2)式が成り立つように \(V_{0}\) と \(\psi_{s}\) の配分が決まります。計算上は \(\psi_{s}\) を与えると \(Q_{s}\) が決まりますから、\(V_{0}\) が決まり、\(V\) が決定できます。

 (1)式と(2)式を用いて計算した半導体がn型の場合の容量 \(C\)-電圧 \(V\) 特性を図16-1に示します(p型半導体の場合は電圧の極性が反対になります)。ここでは \(C_{0}\) を 1 とおいて示してあります。電圧がプラスのときが蓄積状態、電圧がマイナスのときが空乏、反転状態に対応します。

 ところで静電容量の測定は普通、数100kHzから数MHz程度の高周波を使ってインピーダンスを測ることにより測定されます。ただし静電容量の電圧依存性を測定するには直流バイアスに高周波信号を重畳して測ります。ところがこのような測定を行うと、反転状態での容量は \(C_{0}\) に近づかず、空乏状態で減少した値のままになる図の赤線で示したような結果が得られます。

 容量は電極の電荷が測定信号にしたがって変化する場合に測定されます。電極上に測定信号が変化しても変化しない電荷がある場合、それは容量の測定値には関与しません。半導体の少数キャリアは多数キャリアに比べるとゆっくりした変化にしかついていけません。動きが遅いのです。数100kHz程度のそれほど周波数の高くない高周波で測定しても少数キャリアは容量の測定値には効いてきません。そのため反転状態の容量は小さいままとなります。

 これを数式でみると、(1)式の分子、分母とも \(p_{0}/n_{0}\) がかかっている項は少数キャリアの正孔の濃度が高くなると効いてくる項ですから、これらの項を無視すれば、高周波における容量 \(C_{D}\) が得られるはずで、次のように表されます。

\[\begin{align}C_{D} &= e\left ( \frac{n_{0}\varepsilon \varepsilon _{0}}{2kT} \right )^{1/2} \\ &\times \frac{\mathrm{e}^{e\psi _{s}/kT}-1}{\left ( \mathrm{e}^{e\psi _{s}/kT}-e\psi _{s}/kT-1 \right )^{1/2}}\end{align}\]

 実は図の赤線の特性は上式によって計算したものです。高周波容量には関与しませんが、少数キャリアは存在します。空乏層は少数キャリアが発生し始めるとそれ以上広がりませんから、容量の値は一定となります。何らかの手段で少数キャリアの発生を抑えれば、空乏層が広がり続け、容量は減少を続けるはずです。

 なお測定としてはやりにくいのですが、数Hzといった非常に低い周波数の信号を使った測定をすれば(1)式に従って図の青線に近い特性が得られます。