科学・基礎/結晶の話

10.結晶の面方位、軸方向及び対称性の表示方法

 結晶の物理的性質の特徴は、これまでも述べてきた通り、結晶の方向によって異なることです。そこで結晶の物理的性質を特定する場合、まずはそれがどの結晶のどの方向に対応する性質であるのかを明らかにする必要があります。これはすなわちその物理的性質と結晶面あるいは結晶軸との関係を明らかにすることです。

 その際、結晶面や結晶軸をいかに表示するかが問題になります。この表示方法については標準的な決め事があります。この項ではまずそれを取り上げます。

 もっとも簡単な例として \(xyz\) の方向に間隔 \(a_1\)、\(a_2\)、\(a_3\) で原子が並んでいる図10-1のような結晶(結晶格子)を考えます。ある原子を原点 0 にとり、\(xyz\)方向にそれぞれ長さ \(a_1\)、\(a_2\)、\(a_3\) (格子定数と言います)の格子ベクトルをとり、これを \(\boldsymbol{a_1}\)、\(\boldsymbol{a_2}\)、\(\boldsymbol{a_3}\) とすると、あらゆる位置(格子点と言います)にある原子は次式の格子ベクトル \(\boldsymbol{R}\) で表されることはすでに7項で述べています。ここで \(n_1\)、\(n_2\)、\(n_3\) は正負の整数です。

\[R=n_1\boldsymbol{a_1}+n_2\boldsymbol{a_2}+n_3\boldsymbol{a_3}\tag{1}\]

 ここで \(\boldsymbol{a_1}\)、\(\boldsymbol{a_2}\)、\(\boldsymbol{a_3}\) は基本格子ベクトルです。 \(xyz\)方向の軸を結晶軸と言いますが、結晶軸は繰り返しになりますが、直交するようにとる必要は必ずしもありません。例えば8項のブラベー格子の一つ、三斜晶系の場合は直交しない各軸に平行な座標軸をとるのが得策なことは明らかでしょう。もっと原子の並び方の規則が複雑な場合も、ベクトルをうまく取ればあらゆる結晶を(1)式で表すことができます。

結晶軸

 結晶軸の方向はつぎのような指数を使って表します。例えばベクトル \(\boldsymbol{a_1}\) の方向は整数 \(n_1\)、\(n_2\)、\(n_3\) の最小値をカギ括弧[]の中にこの順番に並べ [100] と表します。[200]、[300] なども同じ方向を示しますが、最小の整数を使うという決まりがあります。同様に \(\boldsymbol{a_2}\) の方向 は [010]、\(\boldsymbol{a_3}\) の方向 は [001]です。

 図の赤い矢印の方向は [111]です。緑色の矢印は [210]ですが、この例から 1 より大きな整数を使わなければならない場合もあることがわかると思います。

 負の方向は \([\bar{1}00]\)、\([0\bar{1}0]\)、\([00\bar{1}]\) などと書く決まりですが、普通のテキスト文では書けないので [-100]、[0-10]、[00-1]と書いている場合もあります。

 結晶軸の方向を <111>と書いている場合があります。これは例えば \([111]\) と\( [\bar{1}11]\) は図10-1でみると方向は違いますが、結晶をくるっと回してしまえば同じ方向になり、実際には区別がつきません。このような関係にある方向を等価な方法と言います。このような等価な方向については代表して <111> と書くということになっています。結晶が図10-1のように単純立方晶であれば、[100] も [010] も [001] も等価ですから、これは <100> と書けばよいことになります。もっともこのような [ ] と<>の区別が明確にされていない場合もあるようです。

結晶面

 結晶の面は図10-2に示すように(1)式の \(n_1\)、\(n_2\)、\(n_3\) を使って \(xyz\) 軸と \(n_1\boldsymbol{a_1}\)、\(n_2\boldsymbol{a_2}\)、\(n_3\boldsymbol{a_3}\) と交わる面を\( (1/n_1,1/n_2,1/n_3)\) と表します。ただしこのままでは \(n_1\)、\(n_2\)、\(n_3\) のいずれかの絶対値が 2 以上の場合、その逆数は小数になりますので、それを避けるため、この3つの数に同じ倍数をかけ、それらの比を保った最小の整数の組になるようにして表します。

 例えば図10-3(a)の水色の面は \(n_{1}=1\) ですが、\(y\) と \(x\) の軸には平行で切片はありません。この場合は切片は \(\infty\)、その逆数は 0 と考え、この面は (100) 面となります。緑色の面もこれに平行ですから同じ (100) 面です。面の場合は等価な面を代表して表す場合、{ } を使います。図10-3(b)のピンク色の面は \(n_{1}=1\)、\(n_{2}=1\)、\(n_{3}=1\) ですから (111)面です。図10-3(c)の黄色の面は \(n_{1}=1\)、\(n_{2}=1\) で、\(z\) 軸には平行ですから(110)面となります。

 面の指数は丸カッコで表すことに注意し、結晶軸の方向を表している場合と混同しないようにする必要があります。面を表すこの指数をミラー指数と呼んでいます。ミラーは人名で、この指数を考案したイギリスの鉱物学者W.H.Millerに因みます。

六方晶についての慣例

 以上のようなミラー指数を使ってあらゆる三次元結晶を表すことができます。ただ結晶学あるいは鉱物学の分野にはいろいろな慣行があります。例えば青色発光素子などに使われるⅢ族窒化物半導体には図10-4に示すような六方晶をあらわすのには、上記の3つの指数ではなく、4つの指数を用いるのが普通です。

 この4つの指数のベースになる単位ベクトルは図10-4に示すように正六角形の底面の中心を原点とし、ここから3つの頂点に向かう 120°ずつ角度の違う3つのベクトル \(\boldsymbol{a}_1\)、\(\boldsymbol{a}_2\)、\(\boldsymbol{a}_3\) と底面と垂直な方向の 原点を始点とする \(\boldsymbol{c}\) ベクトルです。

 結晶面の表し方は上記と同じで、この4つのベクトルが結晶面と交わる点の原点からの距離を \(p_1\)、\(p_2\)、\(p_3\)、\(p_c\) とすると、結晶面は\( (1/p_1,1/p_2,1/p_3,1/p_c)\) で表わされます。ただし、この場合は、上記立方晶などの場合と統一性がありませんが、もともと \(p_1\)、\(p_2\)、\(p_3\)、\(p_c\) は整数である必要はなく、したがってそれらの逆数も整数とは限りません。そこでこの場合も倍数をかけて最小の整数の組にしたものをミラー指数とします。

 なお、\(\boldsymbol{a}_1+\boldsymbol{a}_2+\boldsymbol{a}_3=0\) の関係がありますから、この3つのベクトルは独立ではありません。したがって、六方晶といっても3つのベクトル、3つの指数で表すことは可能です。なぜわざわざ4つの指数を使うようになったかの理由は、指数の違う結晶面が等価であるか否かが以下に例を示すようにすぐわかるからです。

 いくつかの結晶面のミラー指数の例を併せて図10-4に示します。これも慣例ですが、六角形の底面の結晶面をc面、これに垂直な結晶軸をc軸と呼びます。c面のミラー指数は(0001)です。この他にも a 面とかm面とか名前の付いた結晶面があります。例えば水色で示したa面は \(\boldsymbol{a}_1\) と\(p_{1}=1/2\) で交わり、\(a_2\) と \(a_3\) とは \(p_2=p_3=1\) でそれぞれ交わっています。また \(\boldsymbol{c}\) とは平行です。したがって a 面のミラー指数は(-2110)であることが分かりますが、ちょうど反対側に当たる(2110)面も等価な a 面です。さらに(1210)、(1120)等々いずれも等価な a 面です。このように4つの指数を使うと等価面が指数の組み合わせからすぐにわかります。

 a 面やm面はいずれも c軸に平行な面ですから4番目の指数は 0 ですが、c軸に対して傾斜した面ももちろん存在します。この場合は c軸との交点が存在するので4番目の指数が 0 でなくなります。図のピンク色の面はその一例で(2-1-12)面です。

対称性

 前項で結晶の対称性について説明しました。しかし実際の結晶がどのような対称性をもつかについてはあまり触れていません。実際の結晶の多くは3次元結晶です。対称性は結晶の方向によって異なりますから、方向を指定して議論する必要があります。この項では上記のように結晶の方向を指定する方法、記号を説明しましたので、これと組み合わせて、具体的な例を挙げて説明したいと思います。

 前項で説明したように結晶の対称性には複数の種類があり、これが結晶の方向と組み合わさっていますので複雑です。これを誤解の無いように表すには、記号表記が便利です。そこで対称性を表示する記号法が何種類か考案、提案されています。ここではよく使われていると思われる国際表記法を紹介します。これはヘルマンモーガン法という方法を採用して国際的に利用できるようにしたものです。表記の方法を以下に説明します。 その他の方法については文献(1)などを参考にして下さい。

 まず対称操作を最大3つの座標軸についてそれぞれつぎのように指定します。座標軸は直交する必要はありません。

1.各軸について回転対称性があれば \(n_{1}n_{2}n_{3}\) と回転次数の数字を並べて表記します。もっとも対称性の高い(数字の大きい)軸を主軸と定め、主軸を最初に記します。3軸とも回転対称性があれば、数字の大きい順に並べます。ただし前項で示したように回転次数 \(n\) は 2,3,4,6 の4種類しかありません。

2.各軸に垂直な鏡映面がある場合は \(\frac{n}{m}\) と示します。\(n\) は上記の回転次数です。\(m\)は小文字のアルファベットそのものを表記します。回転対称性がなく鏡映面のみ存在する場合は \(m\) とのみ記します。

3.反転対称がある場合は、\(\bar{n}\) と回転次数の上にバーを付けて示します。回転対称性がない場合は、\(\bar{1}\)と表します。  

以上が基本です。回反操作についてはつぎのように考えます。 1回回反操作は反転操作と同じですから、\(\bar{1}\) と表記します。 2回回反操作は鏡映操作と同じですから、\(\bar{2}\) と書かず、\(m\) を用います。

4.\(\frac{1}{m}=\bar{2}\) の場合は単に \(m\) と記します。

ブラベー格子について対称性をまとめて、8項の図8-4の右端の欄に示しました。

具体的な例

 以下、3つほど例を挙げます。うち2例はとくに半導体結晶に関係が深い例です。各例とも3種類の結晶面をそれぞれ立体模式図に水色で示し、その注目する面に垂直な方向からみた投影図をそれぞれ示します。円(球)で示す原子の色は各面を垂直方向からみたとき表面に現れる原子がわかるように区別しましたので、各図の間では統一されていません。もちろん原子の種類を表しているものでもありません。

(1)面心立方格子 面心立方格子は6項で示したように最密充填構造で、3層の積み重ねによって構成されます。ブラベー格子の一つでもあります(8項参照)。図10-5(a)は立体図に(100)面を水色で示しています。右側の図はこの(100)面に垂直な方向からの投影図です。単純な正方形であり、4回対称であることがわかります。同図(b)は(111)面を示しています(立体図は6項の図6-3(b)に相当しますが、x軸とz軸に関してそれぞれ90°回転した関係になっています)。緑色で示した立方体の対角位置にある原子を結ぶ直線が回転軸となり、左側の投影図をみると(111)面に関しては3回対称であることがわかります。同図(c)はz軸に平行な(110)面を示しています。この面に関しては2回対称です。また(100)面と(110)面はもっとも近い距離にある等価な面の間に鏡映面がとれますので、鏡映対称性があります。(111)面は鏡映面ではありませんが、原点に関して対称性がありますので、反転対称性です。以上から対称性の高い順に(100)(110)(111)の記号を並べた \(\frac{4}{m}\bar{3}\frac{2}{m}\) で対称性が示されます。

(2)ダイヤモンド格子 ダイヤモンド格子については4項でその成り立ちについて説明しています。半導体にはこの構造をとるものが多いので重要です。ダイヤモンド自身も半導体ですが、シリコンもこの構造をとります。二元化合物であるGaAsやZnSなどは閃亜鉛鉱型の結晶構造をとりますが、これはダイヤモンド構造と同じ基本的に同じ構造です。

 ダイヤモンド構造は基本的には図10-5に示した面心立方格子です。図10-6に示すように面心立方格子を構成する原子以外に緑色と橙色で示した4個の原子を単位格子内に含みます。 同図(a)に示すように(100)面は4回対称です。しかし面心立方格子とは違って鏡面対称性はありません。しかし反転対称性はもっています。同図(b)の(111)面は面心立方格子とまったく同じで3回対称性です。しかし反転対称性は持ちません。同図(c)は(110)面ですが、回転対称性はなく、鏡面対称性のみ持ちます。したがって対称性は \(\bar{4}3m\) となります。閃亜鉛鉱型の場合も同様となります。

(3)六方最密格子 これは6項で示したように2層の積み重ねで構成される構造です。半導体ではGaNがこの構造をとります。図10-7に示すように六角柱を基本とする構造です.上記のように六方晶の面は4桁で示す場合が多いのでここでもそれに従います。

 図10-7(a)は(0001)面です。六角柱の底面に当たる面です。6回対称をもちます。この面がもっとも高い対称性をもつので、この面に垂直な軸をC軸、この面をC面と呼ぶことがあります。この面は鏡映面ではありませんが、原点に関して対称で反転対称性はもっています。

 図10-7(b)は \((11\bar{2}0)\) 面です。2回対称でこの面は鏡映面が存在します。2回対称面で鏡映対称な場合にはmとのみ書きます。

 図10-7(c)は \((10\bar{1}0)\) 面です。こちらは2回対称ではありますが、鏡映面はなく、反転対称でもありません。

 以上より六方最密構造の対称性は、\(\bar{6}m2\) となります。

(1)小川智哉、「結晶物理光学」 (第1章 結晶の特徴と記述法) 1976 裳華房