産業/色彩の話

5.RGB表色系

 3原色の混合比で色に背番号を付ける原理は前項で紹介した通りです。前項では初期の実験を例に簡単に考え方を紹介しただけでしたので、ここでは少しきちんと説明したいと思います。

 まず混ぜ合わせる3つの色の光を \(\mathrm{R}\)、\(\mathrm{G}\)、\(\mathrm{B}\) とします。これを原刺激といいます。光が眼に与える作用のことを色彩論では「刺激」と呼んでいます。まず白色光をこの3つの刺激の組み合わせで表します。ここで白色光 W は理想的なものを考え、可視光の範囲でまったくフラットなスペクトルとします。自然界にはこのような光はないので実験は近似的なものになりますが、このときの等色実験の結果、つまり \(\mathrm{R}\)、\(\mathrm{G}\)、\(\mathrm{B}\) それぞれの明るさ(側光した結果)を \(L_r\)、\(L_g\)、\(L_b\) とします。これを基礎刺激と呼びます。

 つぎに測定したい光(刺激)\(\mathrm{F}\) について等色実験を行い、\(\mathrm{R}\)、\(\mathrm{G}\)、\(\mathrm{B}\) それぞれの明るさが \(P_r\)、\(P_g\)、\(P_b\) であるという結果を得たとします。ここで

\[R=\frac{P_{r}}{L_{r}}~~~~~G=\frac{P_{g}}{L_{g}}~~~~~B=\frac{P_{b}}{L_{b}}\]

と置き、この \(R\)、\(G\)、\(B\) を色刺激 \(\mathrm{F}\) の三刺激値と呼びます。この結果より前項でも紹介した等色式は \[\mathrm{F}=R\mathrm{R}+G\mathrm{G}+B\mathrm{B}\] と書けます。

 色刺激 \(\mathrm{F}\) の明るさを \(L\) とすると   

\[L=P_{r}+P_{g}+P_{b} =RL_{r}+GL_{g}+BL_{b}\] となります。

 いま

\[S=R+G+B\]とし(\(S\) を刺激和と言います)、 \[\begin{align} r &= \frac{R}{S} \\ g &= \frac{G}{S} \\ b &= \frac{B}{S}\end{align}\] と置くと、等色式は    \[\mathrm{f}=r\mathrm{R}+g\mathrm{G}+b\mathrm{B}\] となります。ただし \(\mathrm{f}=\mathrm{F}/S\) です。この \(r\)、\(g\)、\(b\) を色度座標と呼びます。この3次元座標で表した点が色刺激 \(\mathrm{F}\) を表すことになります。

 ただし

\[r+g+b=1\] の関係がありますから、\(r\)、\(g\)、\(b\) のうち独立なのは2つだけです。

 ここまで明記しませんでしたが、以上の関係をみると、原刺激\(\mathrm{R}\)、\(\mathrm{G}\)、\(\mathrm{B}\) はベクトルの考え方であることがわかります。力学のx,y,z座標のように物理的な方向を意味するわけではありませんが、3色を異なるベクトルとして考え、色の表示に座標の概念を導入したのが、色彩理論の特徴と言えます。

 20世紀に入ってライトという人が \(\mathrm{R}\)(波長:700nm)、\(\mathrm{G}\)(546.3nm)、\(\mathrm{B}\)(435.9nm) という原刺激を使って色度座標を求め、これが現在の基礎データとなっています。このデータは色彩論の専門書などに載っています。ここでは「光学技術ハンドブック」(朝倉書店)のデータを使って描いた波長と色度座標の関係を図5-1に示します。横軸に \(r\)、縦軸に \(g\) をとり、単一波長の座標をプロットしたものです。このような図を色度図と言います。

 ベクトル \(\mathrm{R}\) の終点は \(r\) 軸上の1の点に、\(\mathrm{G}\) の終点は \(g\) 軸上の1の点に来ます。\(\mathrm{B}\) は始点を原点に置く紙面に垂直な方向のベクトル点です。ここで \(\mathrm{G}\) より短い波長では \(r\) はマイナスになっています。これはこの範囲の波長に対応する色は前項で説明したように3原色の混色では作ることができないことを示しています。また \(g=1\) に対応する波長より長い波長ではほぼ \(r+g=1\) が成り立っていて、\(b\) はほとんど 0 であることがわかります。

 さらに各波長の光に対する3つの刺激の寄与を表わす特性曲線を図5-2に示します。横軸が波長で縦軸が刺激値です。これは色で示した \(\mathrm{R}\)、\(\mathrm{G}\)、\(\mathrm{B}\) 別のスペクトル曲線です。緑色の矢印で示した 546.1nmの波長では \(R\) と \(B\) はともに 0 になっていて当然ですが \(\mathrm{G}\) だけが寄与しています。これより長い波長の方へいくと次第に \(\mathrm{R}\) の寄与が大きくなり、逆に短い波長へいくと \(\mathrm{B}\) の寄与が増えることがわかります。この曲線をギルド・ライト曲線と呼んでいます。

 この特性には人間の眼の視感度の情報が入っていてそのために \(\mathrm{R}\)、\(\mathrm{G}\)、\(\mathrm{B}\) の各曲線のピークが一致していませんが、各曲線の波長域全体での積分値は等しくなっています。この曲線の求め方は後でもう一度説明します。