電子デバイス/バイポーラトランジスタ

1.はじめに

 世の中の電子機器はめまぐるしい発展を続けていますが、トランジスタがこれらに主として使われる半導体デバイスの中心的な存在であることは変わっていません。言い換えれば現代のエレクトロニクス世界はトランジスタによって支えられていると言えます。

 そのトランジスタがどんなはたらきをしているかと言えば、音声などのアナログ信号に対しては増幅機能があります。例えば電波に乗ってやってくる微弱な信号を増幅し、スピーカを振動させて人間の耳に聞きとれるようにする、といったはたらきです。またコンピュータなどのデジタル信号の1と0はスイッチのオンとオフに対応しますが、トランジスタはそのスイッチのはたらきを電気信号を使って実現できます。このような訳ですから、ほとんどの電子機器がトランジスタによって動いていると言ってよいでしょう。

 このトランジスタですが、大きく分けてバイポーラトランジスタ(Bipolar Junction Transistor)と電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)の2種類があります。両方とも上のような機能はもっていますが、素子の構造も動作原理もかなりちがっています。そこでここでは章を分けてそれぞれについて詳述したいと思います。この章ではバイポーラトランジスタについて取り上げます。

 トランジスタの発明がなされる前に既に電気信号を増幅する素子として真空管が実用化されていました。真空管は真空にした容器のなかでカソード(陰極)から空中に電子を飛び出させ、それがアノード(陽極)に辿り着く量を飛んでいる途中でコントロールするという原理でした。このため、容器を小さくするのには限界がありました。

 一方でコンピュータのような高度な機能をもった電子回路を実現するには多数の増幅素子が必要です。真空管を使ったのでは大型になりすぎ、しかも真空管は1本1本の寿命が短いので電子回路全体が故障しやすいものになってしまうという問題がありました。

 このようななかで20世紀の前半には半導体のなかで電子がどのように動くかが解明されてきて、これを使って真空管と同じ機能をもつ素子ができないかが真剣に研究され始めました。3極真空管と同様な機能を半導体を使って実現しようとした最初のアイデアは電界効果型のトランジスタです。しかし当時の技術ではアイデア通りに動作する素子は実現しませんでした。そこでいろいろな試行錯誤の結果生まれたのがバイポーラトランジスタでした。

 最初にトランジスタとして動作したのは半導体に金属の針を接触させた点接触型というものでしたが、これはまだ安定なpn接合が作れない段階での苦肉の策とも言えるものでした。その後、より安定なpn接合ができるようになり、接合型と呼ばれるものが開発されました。これが真のバイポーラトランジスタと言えるものでしょう。

 ところで上記のようにバイポーラトランジスタは英語では"Bipolar Junction Transistor"と呼ばれています。日本語にすれば「バイポーラ接合トランジスタ」が正しいことになりますが、少し長いので「接合」を省くようになったと思われます。

 ここで言う「接合」とはp型半導体とn型半導体とを接合したpn接合のことです。バイポーラトランジスタはpn接合を2つ連ねた構造をもち、n型層を共通の中間層としてpnとnpの接合を連ねたpnp型、またはp型層を中間層としてnpとpnの接合を連ねたnpn型があります。つまり方向(極性)が反対の2つの接合を連ねたという意味で2つ(バイ)の極性(ポーラ)の接合、すなわちバイポーラ接合トランジスタと命名されたと思われます。

 バイポーラトランジスタの発明と初期の試行錯誤についてはいろいろな本に書かれていますので、ここでは深入りしないことにします。むしろトランジスタがどうして増幅作用をもっているのかについて説明していきます。

 「トランジスタ(transistor)」という語はその発明の地であるベル研究所で生まれたそうです。転送するという意味のtransferと抵抗器を表すresistorの合成語であると言われています。筆者は長らく3極真空管(Triode)の半導体版という意味でTriodeとresistorを合成したものと思っていました。この方が合理的だと思いますが、triからtranとなるのは少し無理がありそうです。